アナログレコードがよく売れているそうですね。オールドファンのみならず若者の間でも人気が高まり、アーティスト側もアナログレコードとCDを同時にリリースするケースが増え、アメリカではCDを上回る勢いだとか。かつてCDが登場し、さらにストリーミングによって音楽を聴く手段が登場した時は、どんどんそうした便利な新技術に切り替わっていくのかと思っていたら、必ずしもそうはならないんですね。人々の嗜好、世の中の流行りというのは分からないもんです。
しかしながら、熱烈なアナログファンには怒られそうですが、不肖私、かつて聴いていたアナログレコードには、それほどよい印象を持っていないんです。というか、全く好きじゃないです。理由は三つあって、第一の欠点と思うのが、耐久性がないこと。何度も繰り返し聴いていると、レコード針によって盤面が磨り減って音が悪くなっていきますからね。それが嫌で、買ってすぐにカセットテープに録音して、専らそちらで聴いていたもんです。
第二の欠点が、傷がついたりホコリが溜まったりして雑音の原因になりやすいこと。クリーナーもありましたが、決して100%きれいにはならなかったように思います。昔、お気に入りのレコードを友達に貸したことがありまして、戻ってきたらホコリまみれ、傷だらけで、とても聴けたもんじゃない、もう二度と他人には貸すもんかと思いましたよ。
それから第三の欠点が、レコードの外周と内周で音質が大きく変化すること。外周の1曲目は音に迫力があってキレッキレなのに、内周になるとずいぶん音質がプアになる。これはレコードの構造上やむをえないとしても、とても興醒めなところでしたね。とくに好きな曲が内周に録音されていたらガッカリしましたもん。制作側もその辺を配慮して、内周にはどちらかというと大人しめの曲を配しているんだとか。また一説には、レコード針が内周に行くに従って静電気を帯びてくることも影響しているといいます。
一、二番の欠点は何とか克服できたとしても、三番目だけはレコード自体の根本的な性質であり、如何ともしがたいところです。私にとっては、これがアナログ・レコードを嫌ういちばん大きな理由になっています。しかし、アナログファンの方々はなおさら音には強い拘りがあるはずだと思うのですが、このあたりどう感じていらっしゃるのでしょう。
でも、そんなアナログレコードが今になって人気を博すのは、やはりあの「モノ」感あるいは「カタチ」への拘りですかね。小さなCDなんかより立派な形として存在し、音楽を所有しているという満足感。それから盤に針を載せる操作感と、レコードが回転して音楽を奏でる、まさに演奏しているという実態感のある光景。ホコリによる雑音もひょっとしたら新鮮に感じるのかもしれない。
同じような現象が、自動車の世界にもある気がします。近ごろの自動車は、かつてのセダン人気が衰え、売れているのはもっぱらミニバンやSUV、さらにエンジンは燃費重視の4気筒やハイブリッド、EVへと移行しつつあり、駆動方式もFRからFFが主流に。しかし一方で、依然としてセダン、6気筒のガソリン・エンジン、FRに拘るオールド?ファンも存在します。数値的な動力性能ではお互いに遜色ないレベルになっており、さらに燃費で大きな差が出てきているのに、それでも絶対に後者じゃなきゃ嫌だという頑固なファンがいます。
実は私がその頑固者の一人です。「クルマはセダン」というのがずっと固定観念になっており、6気筒エンジンのシューンと吹けあがる官能さは何物にも替え難く、またFRの後ろから蹴り上げるような感覚も刺激的で、FFの後輪が役割を持たずにただ転がっているだけというのはどうも気持ちが悪い、というのがその理由です。すみません、あくまで好き嫌いだけの意見であり、時代遅れといわれればそうでしょう。でも絶対に譲れない部分なんです。クルマ好きならではのこういう拘りって、ご理解いただける方は少なからずいらっしゃると思います。
アナログレコードをこよなく愛する方々にも、ひょっとしてこれと似たような感覚はございませんでしょうか。どちらが優れているかとは全く別の次元の拘り。決してノスタルジーなどという単純で浅薄な思いではなく、スタイルへの拘り、あるいは、思想、価値観といいますか・・・。CDが登場した直後はすぐに絶滅するのではないかと思っていたアナログですが、今となってはどことなくカッコよくて、何だか贅沢で高尚にさえ感じます。あの時、いとも簡単にアナログを裏切ってデジタルに乗り換えた身としては、ほんの少しだけ後ろ暗い思いがいたしております。
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