| 訓読 |
秋の田の穂田(ほだ)の刈りばかか寄りあはばそこもか人の我(わ)を言(こと)成(な)さむ
| 意味 |
秋の田で穂を刈る分担の場で、お互いに近寄っていったら、それだけで他の人は私たちのことを噂するでしょうか。
| 鑑賞 |
作者の草嬢(くさのおとめ)は「かやのおとめ」とも読みますが、伝未詳です。略して書いた女の名だろうとか、あるいは固有名詞ではなく、田舎の娘のことともいわれます。「穂田」は、稲穂が実った田のこと。「刈りばか」は、稲を刈り取る分担の意味で、「はか」は一つの区切られた場所、担当の箇所のことをいいます。「一はか」が、一人が一日に刈るべき区域だったのかもしれません。いま私たちが「はかどる」と言っているのは、決められた分担の仕事が進んでいることを意味します。「か寄りあはば」の「か」は接頭語で、寄り合ったならば。「そこもか」は、そんな(些細な)ことでさえも。「人の」は、第三者。「我を言成さむ」の「言」は、噂。「成さむ」は、勝手に話を作って語ること。
当時の稲刈りは、稲穂の穂首だけを刈っていく穂首刈りだったといい、その時期になると、村人が一つに集まり、それぞれに分担の場所を決めて共同作業で行われたようです。この歌が詠まれた状況は、その稲刈りの作業が進んでいるうちに、はかの隣同士の若い男女が境界を挟んで、だんだん近づいてくる。すると周りの人たちが、「あれ、あの二人はずいぶん近寄って稲刈りをしている。ひょっとして怪しい関係なのではないか・・・」と噂をするかもしれない。と、そんな心配をしている歌です。
この時代の結婚は、それに至るまでのある期間はお互いに秘密にしていましたから、偶然にも相接近するようなことがあれば、たちまち好奇の視線を浴び、格好の噂の種にされたのでしょう。この歌は、その対象とされやすい年ごろの娘の嘆きであり、語は単純ながらも、田舎の実生活に即した、味わいのある歌です。なお「草嬢」を、舒明天皇の妃「蚊屋娘(かやのをとめ)」とみる説もあり、また、宴席での戯れ歌であり、「草嬢」といっているのも、この歌に合わせた戯れではなかったかともいわれます。

【PR】
『万葉集』クイズ
次の歌の作者は誰?
【解答】
1.額田王 2.中大兄皇子 3.柿本人麻呂 4.志貴皇子 5.高市黒人 6.長皇子 7.文武天皇 8.笠郎女 9.山部赤人 10.有馬皇子
|
古典に親しむ
万葉集・竹取物語・枕草子などの原文と現代語訳。 |