| 訓読 |
佐保河(さほがは)の岸のつかさの柴な刈りそね 在りつつも春し来たらば立ち隠(かく)るがね
| 意味 |
佐保川の岸の上の柴は刈らないでください、春になったら隠れて恋ができるように。
| 鑑賞 |
大伴坂上郎女の旋頭歌。旋頭歌は5・7・7を2回繰り返した6句からなり、上三句と下三句とで詠み手の立場がことなる場合が多くなっています。頭句(第一句)を再び旋(めぐ)らすことから、旋頭歌と呼ばれ、短歌との先後は、旋頭歌のほうが古いものとみられています。『万葉集』には約60首があり、それも大体『柿本人麻呂歌集』のものです。この歌は、郎女が、擬古の心から興味をもって作ったものとみられています。『万葉集』の女性歌人で、長歌・短歌・旋頭歌の3種の歌体を詠んだのは坂上郎女一人のみです。男性歌人でも、大伴家持、高橋虫麻呂、山上憶良だけで、『柿本人麻呂歌集』の旋頭歌の何首かを人麻呂作だとしても、極めて少数の人しか一人で3種の歌体を残していません。
「佐保川」は平城京を縦断する川で、都の人々にはとても馴染み深い川だったらしく、『万葉集』に多く詠まれています。また、川沿いにある佐保の地は、当時のいわば高級住宅街であり、大伴氏の邸宅のほか、長屋王の別荘や藤原氏の邸宅があったといわれています。「岸のつかさ」は、岸の小高いところ。「柴」は、雑木。「な刈りそね」の「な~そ」は禁止、「ね」は願望の助詞。「在りつつも」は、柴がそのままにでもあり続けて。「春し来たらば」の「し」は、強意の副助詞。「立ち隠るがね」の「立ち隠る」は、葉蔭に隠れる意で、「立ち」は、身をかがめなくても人目につかないことを考慮して言ったものか。「がね」は、格助詞の「が」と、願望の助詞の「ね」。春になったら逢引をしましょうというので、冬のうちに場所を確保しようと歌っています。

各巻の主な作者
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万葉集・竹取物語・枕草子などの原文と現代語訳。 |