| 訓読 |
さ夜中(よなか)に友呼ぶ千鳥(ちどり)物思(ものも)ふとわびをる時に鳴きつつもとな
| 意味 |
真夜中につれあいを求めて鳴く千鳥よ、物思いに悲しく沈んでいる時にむやみやたらと鳴いたりして。
| 鑑賞 |
大神女郎(おおみわのいらつめ)が大伴家持に贈った歌。大神女郎は伝未詳ですが、『続日本紀』に散見される大神朝臣氏の女子であると見られています。大神氏は大物主神(大三輪神)の子大田田根子を始祖とする神別氏族で、大神神社(奈良県桜井市三輪)の祭祀を司りました。
「さ夜中」の「さ」は接頭語。静まり返った深夜の厳かな空気感を強調します。「友呼ぶ千鳥」は、群れをなして飛ぶ千鳥の鳴く声がお互いに呼び交わすように聞こえるところからの言で、後世には「友千鳥」という言葉も生まれました。ここは呼びかけに近いもの。「わびをる時に」は、悲しく思っている時に。「鳴きつつもとな」の「もとな」は、むやみに、理由なく。鳴き続けていることよ、むやみに。文末に「もとな」が来るときは、その上に「つつ」があり、動作主に悪気がなくても話し手には迷惑なことを表す場合に用いられます。また、文末を「もとな」で放り出すように終わらせることで、鳴き止まない千鳥の声と終わらない物思いが、夜の闇の中にいつまでも溶け残っているような、深い余韻(詠嘆)を生んでいます。
大神女郎の歌は、巻第8にもあり(1505)、これも家持に贈った歌です。

家持の恋人たち
青春期の家持に相聞歌を贈った、または贈られた女性の顔ぶれは次のようなものです。
大伴坂上大嬢 ・・・巻第4-581~584、727~755、765~768ほか
笠郎女(笠女郎とも) ・・・巻第3-395~397、巻第4-587~610ほか
山口女王 ・・・巻第4-613~617、巻第8-1617
大神女郎 ・・・巻第4-618、巻第8-1505
中臣女郎 ・・・巻第4-675~679
娘子 ・・・巻第4-691~692
河内百枝娘子 ・・・巻第4-701~702
巫部麻蘇娘子 ・・・巻第4-703~704
日置長枝娘子 ・・・巻第8-1564
妾 ・・・巻第4-462、464~474
娘子 ・・・巻第4-700
童女 ・・・巻第4-705~706
粟田女娘子 ・・・巻第4-707~708
娘子 ・・・巻第4-714~720
紀女郎 ・・・巻第4-762~764、769、775~781ほか
娘子 ・・・巻第4-783
安倍女郎 ・・・巻第8-1631
平群女郎 ・・・巻第17-3931~3942
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『万葉集』の歌に見える次の語句の意味を答えてください。
【解答】 1.田舎、都から遠い地 2.海の神、または海そのもの 3.行ったり来たりする、あちらこちらを廻る 4.木の葉が色づく、紅葉する 5.家へのみやげ 6.方法、手段 7.将来、果て 8.かすかに、ぼんやりと 9.はっきりと 10.むやみに、わけもなく
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