| 訓読 |
道に逢ひて笑(ゑ)まししからに降る雪の消(け)なば消ぬがに恋ふといふ我妹(わぎも)
| 意味 |
道で出逢って微笑みかけられたがゆえに、その人が、死ぬなら死んでもいいというほど恋しているという噂のあるそなたよ。
| 鑑賞 |
聖武天皇の御製歌で、酒人女王(さかひとのおおきみ)に賜った歌です。酒人女王は、題詞の下に穂積皇子(ほずみのみこ)の孫娘とあるほかは経歴不明。「道に逢ひて」は、女王が道で人に逢って、の意。その人は男性で、身分のある人とみえますが、誰かは分かりません。「笑ます」は「笑む」の尊敬語。女性に対しては敬語を用いる風があったので、それに倣ったもの。「からに」は、~によって、ゆえに。原因が些細なわりに結果が重大なことを表す語法。「降る雪の」は「消」の枕詞。「消ぬがに」の「がに」は、ごとくに、するほどに。
天皇が、何かの折に女王のそのような華のある噂を聞き、興を感じて賜ったというもので、皇室内ならではの、温かく大らかな品位が窺える歌柄です。なお、この歌の解釈を「私と道で会って、私が微笑んだので、雪の消え入るばかりにお慕いしますというそなたよ」とするものもあり、むしろそちらの方が一般的ですが、歌の品位や趣は全く異なってきます。

聖武天皇の略年譜
701年 文武天皇の第一皇子として誕生(諱は首・おびと)
714年 皇太子となる
716年 光明子(光明皇后)と結婚
724年 24歳で即位(第45代天皇)
729年 長屋王の変。光明子を皇后に立てる
735年 天然痘が大流行、飢饉が発生
740年 藤原広嗣の乱。恭仁京、難波京などへの遷都を繰り返す
741年 国分寺・国分尼寺建立の詔
743年 東大寺大仏造立の詔(紫香楽宮にて)
749年 大仏完成(開眼供養は752年)。孝謙天皇に譲位し、上皇となる
756年 平城宮にて崩御(享年56)
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万葉時代の天皇
第33代 推古天皇 592~628年
第34代 舒明天皇 629~641年
第35代 皇極天皇 642~645年
第36代 孝徳天皇 645~654年
第37代 斉明天皇(皇極天皇が重祚) 655~661年
第38代 天智天皇 668~671年
第39代 弘文天皇 671~672年
第40代 天武天皇 673~686年
第41代 持統天皇 690~697年
第42代 文武天皇 697~707年
第43代 元明天皇 707~715年
第44代 元正天皇 715~724年
第45代 聖武天皇 724~749年
第46代 孝謙天皇 749~758年
第47代 淳仁天皇 758~764年

(聖武天皇)
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