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巻第5(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第5-823~827

訓読

823
梅の
花散らくはいづくしかすがにこの城の山に雪は降りつつ
824
梅の花散らまく惜(を)しみわが園(その)の竹の林に鶯(うぐひす)鳴くも
825
梅の花咲きたる園(その)の青柳(あをやぎ)を蘰(かづら)にしつつ遊び暮らさな
826
うち靡(なび)く春の柳(やなぎ)とわが宿(やど)の梅の花とを如何(いか)にか分(わ)かむ
827
春されば木末隠(こぬれがく)りて鴬(うぐひす)ぞ鳴きて去(い)ぬなる梅が下枝(しづゑ)に

意味

〈823〉
 梅の花が散るというのは何処のことか。この城の山には雪があとからあとから降ってくる。
〈824〉
 梅の花が散っていくのを惜しみ、私の庭の竹林で、ウグイスがしきりに鳴いている。
〈825〉
 梅の花が咲いているこの園の、青柳を髪飾りにして、終日のんびりと遊び暮らそう。
〈826〉
 霞(かすみ)の中で芽吹く柳と、わが家の梅の花とのよしあしを、どのように区別しようか。
〈827〉
 春がやってくると、梢に隠れていたウグイスが鳴いては飛び移っていく。梅の下枝あたりに。

鑑賞

823は、大監・大伴百代(おおとものももよ)の歌。
824は、少監・
阿氏奥島(あしのおきしま)の歌。
825は、少監・
土氏百村(とじのももむら)の歌。
826は、大典・
史氏大原(ししのおおはら)の歌。
827は、少典・
山口若麻呂(やまぐちのわかまろ)の歌。

 大宰府での宴で詠まれた「梅花の歌」全32首(815~846)のうちの5首です。32首の内訳は、前半の15首が上席、後半の17首が下席の歌となっており、ここの5首は上席者が詠んだ歌です。会席の配置は、上席が主人の旅人を別の座に7人ずつが向かい合い、下席は幹事の者を別の座に8人ずつが向かい合っていたといいます。大監(だいげん)は、少弐に次ぎ大宰府三等官の上席。定員2名で、正六位下相当。少監(しょうげん)は、大監に次ぐ大宰府三等官の下席。定員2名。大典(だいてん)は、少監に次ぐ大宰府四等官で、正七位相当。定員2名。少典(しょうてん)は、大典の下席で、正八位相当。定員2名。

 
823の「散らく」は「散る」のク語法で名詞形。「何処」は、何処に散っているのかと疑って言ったもの。「しかすがに」は、そうはいうものの。「城の山」は、大宰府の真南にあり、大宰府から筑後・肥前の国府に向かう際に越える山。作者の百代は旅人の同族であり、前の旅人の歌(822)を受けて、「梅の花が散るというのは何処のことか。この城の山には雪があとからあとから降ってくる」と忌憚のない詠み方をしています。ただ、そうした反問は座が白けるものであり、不審だとして、「我が園に限らず、ここかしこ何処でも散っています」のように解すべきとの説があります。ただ、これらの歌が詠まれた正月13日(2月8日)に大宰府辺りの梅が満開だった、または散る様子が見られた可能性は低いため、咲いている梅を想像して詠んだものか、あるいはこの宴そのものが虚構ではないかと見る向きもあります。一方、当時の梅は今日の新種の鑑賞梅とは異なり早咲きの野梅に当たり、宮廷跡といわれる辺りに今も見られる白梅は、早咲きが2月上旬から中旬に咲くと言います。

 
824の「散らまく」は「散らむ」のク語法で名詞形。「惜しみ」は「惜し」のミ語法で、惜しいので。「鶯鳴くも」の「も」は、感動や詠嘆を表す終助詞。825の「青柳」は、芽吹いたばかりの、青々とした柳の枝。「蘰にしつつ」の「蘰」は、つる草や花の枝などを輪にして頭に巻く飾りのこと。古来、植物の生命力を取り込むという呪術的な意味もありましたが、万葉の時代には宴席の風流な装身具として定着していました。「遊び暮らさな」の「遊び」は、歌舞管弦。「暮らさな」の「な」は、願望の終助詞。

 
826の「うち靡く」は「春」の枕詞であると同時に、柳の糸の形容。「わが宿の」は、ここでは宴の会場である大伴旅人の邸宅を指します。「いかにか分かむ」の「いかにか」は、どのようにして、どうやって。「分かむ」の「分く」は、優劣を分ける、区別する意。827の「春されば」は、春になると、春がやってくると。「木末隠りて」の「木末」は、木の枝の先、梢(こずえ)。「鳴きて去ぬなる」の「なる」は伝聞推定の助動詞で、上の「ぞ」の係り結び。鳴き声によって、鶯があちこち木伝うさまを想像しているもの。「下枝」は、幹の下の方の枝。
 


かづら(蘰)

 カヅラは、蔓(つる)性植物の総称の場合と、植物の蔓や緒に通した玉などを用いた髪飾りを指す場合とがある。髪飾りとしてのカヅラは、カミ(髪)+ツラ(蔓)の約と考えられ、そこから、一般に蔓草をいうようになったものであろう。同じ髪飾りでも、ウズやカザシが枝のまま髪に突き刺したのに対し、カヅラは蔓状の植物を髪に結んだり、巻きつけたり、輪状にして頭に冠したりして用いた。元来は、蔓性植物の強い生命力を身に移そうとする感染呪術に基づくと考えられている。

 『万葉集』には、蔓性植物の総称をいうカヅラに美称の「玉」が冠した「玉葛(たまかづら)」の例がしばしば見える。蔓が長く延びて絶えないことから、枕詞として「絶ゆることなく」や「いや遠長く」などを導くことが多い。

 一方、髪飾りの意のカヅラであるが、『万葉集』では様々な植物をカヅラにすることが詠まれている。なかでも、柳のカヅラを詠む例が圧倒的に多い。カヅラの動詞型カヅラクの例も見える。 

~『万葉語誌』から抜粋引用

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