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巻第6(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第6-984

訓読

雲隠(くもがく)り行くへをなみと我(あ)が恋ふる月をや君が見まく欲(ほ)りする

意味

雲に隠れて行方が分からないと、私が心待ちにしている月を、あなたも見たいとお思いでしょうか。

鑑賞

 豊前国の娘子の「月の歌」1首。題詞の脚注に「娘子の字を大宅(おほやけ)という、姓氏は分からない」とあり、遊行女婦だったと推測されています。「雲隠り」は、雲に隠れて。主語は、月。「行くへをなみ」は、(月の)行方がわからないので。「見まく欲りする」は、見たいと思うだろうか。ただし、この歌は、上掲の解釈では前半と後半の内容が結びつかないため、何を言いたいのかが分かりにくくなっています。そこで、単独の歌ではなく、同じ作者が詠んだ巻第4-709との一連の歌とみて別の解釈を試みているものがあります。709は次のような歌です。

〈709〉
夕闇(ゆふやみ)は道たづたづし月待ちて行(い)ませ我(わ)が背子(せこ)その間(ま)にも見む
 ・・・夕闇は道がおぼつかないでしょう。月の出を待ってからお行きなさい。お帰りになるその間、月の光で後ろ姿を見送りましょう。

 双方とも「月と恋人の男」を詠んだ共通の歌であることが分かります。そして、984は709の続きとして、「月が雲に隠れ、あなたが帰る道の行方が分からないからという口実であなたを引き留めることができるので、このまま隠れていてほしいと思っている月なのに、あなたはその月を早く見たいというのでしょうか」のように解釈することができます。709と離れて配置されている984を、こうして並べてみると、どちらも、月が隠れていることを理由に、男の帰りを少しでも長く引き留めようとする女の気持ちが浮かびあがってきます。
 


『万葉集』クイズ

 次の歌は、『万葉集』の人気歌トップ10に選ばれた歌です(NHK『万葉集への招待』から)。それぞれの作者名を答えてください。

  1. あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る
  2. 石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも
  3. 新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事
  4. 春過ぎて夏来たるらし白妙の衣干したり天の香具山
  5. 田子の浦ゆうち出でて見ればま白にそ富士の高嶺に雪は降りける
  6. 恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ長くと思はば
  7. 東の野に炎の立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ
  8. 熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎいでな
  9. 銀も金も玉もなにせむに優れる宝子に及かめやも
  10. 我が背子を大和へ遣るとさ夜ふけて暁露に我が立ち濡れし


【解答】 1.額田王 2.志貴皇子 3.大伴家持 4.持統天皇 5.山部赤人 6.大伴坂上郎女 7.柿本人麻呂 8.額田王 9.山上憶良 10.大伯皇女

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遊行女婦について

 娘子(おとめ)と呼ばれ、万葉集に秀歌を残している人たちの多くは遊行女婦(うかれめ)たちだろうといわれています。その殆どは出身国の名がつくだけで、どのような生い立ちの女性であるか定かではありません。当時は、身分の高い女性のみ「大嬢」とか「郎女」「女郎」などと呼ばれ、その上に「笠」「大伴」などの氏族名がつきました。

 遊行女婦は、官人たちの宴席で接待役として周旋し、華やぎを添えました。ことに任期を終え都へ戻る官人のために催された餞筵(せんえん)で、彼女たちのうたった別離の歌には、多くの秀歌があります。

 その生業として官人たちの枕辺にもあって、無聊をかこつ彼らの慰みにもなりました。しかし、そうした一面だけで遊行女婦を語ることはできません。彼女たちは、「言ひ継ぎ」うたい継いでいく芸謡の人たちでもありました。

古典に親しむ

万葉集・竹取物語・枕草子などの原文と現代語訳。