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巻第7(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第7-1323~1327

訓読

1323
海(わた)の底(そこ)沖(おき)つ白玉(しらたま)よしをなみ常(つね)かくのみや恋ひわたりなむ
1324
葦(あし)の根のねもころ思ひて結びてし玉の緒(を)といはば人(ひと)解(と)かめやも
1325
白玉(しらたま)を手には巻かずに箱のみに置けりし人ぞ玉(たま)嘆(なげ)かする
1326
照左豆(てるさづ)が手に巻き古(ふる)す玉もがもその緒(を)は替(か)へて我(わ)が玉にせむ
1327
秋風は継(つ)ぎてな吹きそ海(わた)の底(そこ)沖(おき)なる玉を手に巻くまでに

意味

〈1323〉
 海の底深くに沈んでいる真珠。それを採る手立てがなく、いつもこうして遠くから恋続けるよりほかにないのだろうか。
〈1324〉
 葦(あし)の根のようにしっかり結び合わせた真珠の紐だとあなたが言ったら、それを他人が解ける筈はあるまい。
〈1325〉
 白玉を手に巻くことなく、箱の中にしまいっぱなしの人が、その白玉を嘆かせているのだ。
〈1326〉
 照左豆(てるさず)が手に巻き古している真珠を欲しいものだ。その紐を取り替えて私の真珠にしたい。
〈1327〉
 秋風よ、そんなに次々と吹かないでおくれ。深い海の底にある真珠を採って私の手に巻くまでは。

鑑賞

 作者未詳の「玉に寄せる」歌5首。1323の「海の底沖つ白玉」は、深い所にある真珠を意味し、遠く離れていて手が届かない、美しくも儚い存在の比喩。ここは、母親の監視が厳しくて容易に逢うことのできない美女の喩えとされます。「よしをなみ」は、採るべき手段がないので。「常かくのみや」の「や」は、疑問の係助詞で、いつもこのように~だけか。「恋ひ渡りなむ」の「む」は、結びの連体形。「む」は推量の助動詞で、〜だろう、という意味ですが、「や」とセットになることで、これからもずっと、このように恋い焦がれ続けて終わってしまうのだろうかという、自問自答のニュアンス、そして先行きの見えない不安や嘆きを強調する効果を生んでいます。

 
1324の「葦の根の」は、葦が細かく入り組んだ根を張ることから、「ねもころ」の枕詞。「ねもころ」は、ねんごろに、心を込めての意。「玉の緒」は、玉を貫き通す紐のことで、固い夫婦の契りの喩え。「人解かめやも」の「人」は他人、「解く」は二人の仲を裂く意、「やも」は反語で、他人が解くだろうか、いや、決して解けはしない。女と契りを結んだものの、他人の邪魔によって関係が絶えはしないかと不安に思っているのを励ましている男の歌です。

 
1325の「白玉」は、若い女(妻)の喩え。「手には巻かずに」は、共寝をすることもなく、の意。「箱のみに置けりし」は、人目に触れさせずに大切にしながら、少しも顧みることをしなかった、の意の譬喩。「人」は、夫である男。「玉嘆かする」は、玉を嘆かせることだ。愛を示さない夫を恨む妻が詠んだ歌で、自身を「白玉」と言っているのは、妻としてのプライドからの譬喩とされます。一方、若い娘に恋している男が、娘の母親のあまりの厳格さを恨み、嘆いている歌とする見方もあります。

 
1326の「照左豆」は、語義未詳ながら、作者の知人の名であり、「照左豆が手に巻き古す玉」は、照左豆の妻の譬喩とする見方があります。その妻を美女だと思って羨み、自分の妻にしたいと言っているというのです。「もがも」の「もが」は願望の終助詞、「も」は詠嘆。「その緒は替へて我が玉にせむ」は、玉を貫いている緒を取り替えてわが手玉としよう、の意で、夫婦関係を結び替えて自分の妻としよう、の譬喩。窪田空穂は、「真実にそうしようと思っているというのではなく、そうした気を起こさせるような美女だという、明るい心からの賞讃の言葉と取れる」と述べています。

 
1327の「継ぎて」は、続いて。「な吹きそ」は、吹くな。「海の底」は「沖」の枕詞。「沖なる玉」は、深い所にある玉(真珠)で、深窓の美女に譬えており、「手に巻く」は、自分のものにする(添い遂げる)ことを意味します。個人的な恋の情熱を「海」という壮大な舞台に投影している歌です。
 


枕詞あれこれ

  • あかねさす
    「日」「昼」に掛かる枕詞。「赤く輝く」もの、」すなわち太陽を意味する。また、茜(あかね)色に近い「紫」の枕詞にも転用されている。
  • 秋津島/蜻蛉島(あきづしま)
    「大和」にかかる枕詞。「秋津島」は、日本の本州の古代の呼称で、『古事記』には「大倭豊秋津島」(おおやまととよあきつしま)、『日本書紀』には「大日本豊秋津洲」(おおやまととよあきつしま)と、表記している。また「蜻蛉島」は、神武天皇が国土を一望してトンボのようだと言ったことが由来とされている。
  • 朝露の
    「消」に掛かる枕詞。朝露は消えやすいところから。
  • あしひきの
    「山」に掛かる枕詞。語義未詳ながら、足を引きずってあえぎながら登る意、山すそを稜線が長く引く意など諸説がある。
  • あぢむらの
    「あぢむら」は、アジガモ(味鴨)。アジガモが群がって騒ぐことから、「騒く」にかかる枕詞。
  • 梓弓(あづさゆみ)
    梓弓は、梓の丸木で作られた弓。弓を射る動作から「はる」「ひく」「いる」などに掛かる。また弓に付いている弦(つる)から同音の地名「敦賀」に、弓の部分の名から「末」などにも掛かる。
  • 天伝ふ
    「日」に掛かる枕詞。「天(大空)を伝い渡っていく」もの、すなわち太陽を意味し、「日」の修飾ではなく、同格の関係にある。「天知るや」「高照らす」「高光る」なども同様。
  • 天飛ぶや
    「鳥」「鴨」に掛かる枕詞。空高く飛ぶことから。また、「雁」を転用して「軽(かる」にも掛かる。
  • 荒妙(あらたへ)の
    「藤」に掛かる枕詞。荒妙は、木の皮の繊維で作った粗い布で、おもに藤をその材料としていたことから。

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