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巻第8(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第8-1497~1499

訓読

1497
筑波嶺(つくはね)に我(わ)が行けりせば霍公鳥(ほととぎす)山彦(やまびこ)響(とよ)め鳴かましやそれ
1498
暇(いとま)なみ来まさぬ君に霍公鳥(ほととぎす)我(あ)れかく恋ふと行きて告げこそ
1499
言(こと)繁(しげ)み君は来まさず霍公鳥(ほととぎす)汝(な)れだに来(き)鳴け朝戸(あさと)開かむ

意味

〈1497〉
 もし私が筑波嶺に登りに行ったとしたら、ホトトギスが山をこだませて鳴いてくれただろうか。
〈1498〉
 暇がないからと、あの方はいらっしゃらないので、ホトトギスよ、こんなに恋い焦がれているという私の気持ちを、行って伝えてほしい。
〈1499〉
 人の口がうるさいからとあの方はいらっしゃらない。ホトトギスよ、せめてお前だけでも来て鳴いておくれ。朝戸を開けて待っているから。

鑑賞

 1497は、題詞に「筑波山に登らざりしことを惜しむ」歌とあり、左注に『高橋虫麻呂歌集』に出ている、とある歌です。「筑波嶺」は、筑波山。「行けりせば霍公鳥山彦響め鳴かましや」の「せば~まし」は反実仮想。「山彦」は、山に音声が反響する現象を山に男がいると考えたもの。「それ」は、語調を強めるために添えた語。窪田空穂は、「常陸の国庁にあって、同僚が筑波山に登ったが、聞こうと思ったほととぎすが鳴かなかったと話した時、それに答える心で詠んだものと思われる。作意は、ほととぎすの鳴かなかったのは、自分を誘って同行しなかったからだ。自分がいたら、きっと盛んに鳴いたにちがいない、というので、戯談の形で恨みをいったものである」と説明しています。なお、常陸の国庁は、茨城郡、今の石岡にあり、筑波山はその西方おおよそ15kmに位置していますから、年中見ることができました。虫麻呂の歌からは、彼は少なくとも3回は筑波山に登っていることになります。

 
1498は、大伴坂上郎女の「夏の相聞歌」。「暇なみ」「なみ」は「無し」のミ語法で、暇がないゆえに。「来まさぬ」は、敬語。「かく恋ふ」は、このように恋うの意ですが、「カッコウ」と鳴く鳥の声にあてたものとする見方があります。ホトトギスとカッコウは全く違う鳥ですが、原文に「霍公鳥」とあるように、ここでは、ホトトギスの声を「カッコウ」と聞きなしていたと考えられます。そのため、『万葉集』に詠まれているホトトギスはカッコウのことではないかとの説があり、さまざま議論が交わされています。また、ホトトギスを「郭公」と表記しているものもあり、両者を区別していなかったのではないかともいわれます。「告げこそ」の「こそ」は、願望の助詞。

 『万葉集』の歌の一人称の代名詞には、ワガ・ワレのようなワ系の語と、アガ・アレのようなア系の語があります。どのように使い分けされるかについて、たとえば、一人称が「恋」という名詞に続く場合は、その殆どがア系の語が用いられているとの指摘があります。「我(あ)が恋まさる」「我(あ)が恋やまめ」「我(あ)が恋わたる」などの例があり、ここの歌の場合も同様に「我(あ)れかく恋ふ」と訓みます。一般的あるいは複数的に用いられる場合は、ワ系であるのに対し、ア系は、単数的、孤独的である場合に用いられているとされます。

 
1499は、大伴四綱(おおとものよつな)が宴席で吟誦した歌で、女の立場になって詠んでいます。「言繁み」は、人の噂がうるさいので。ただし、原文「事繁」とあるので、公務が多いので、と解するものもあります。「来まさず」は「来ず」の尊敬語。「汝れだに」の「だに」は、最小限の願望、せめて~だけでも。「朝戸開かむ」の「朝戸を開く」とは、夜、女に逢いに来た男を朝方に送り出すために朝戸を開けること。ここは逆に、待ちぼうけを食った女がホトトギスを迎えるために朝戸を開くと言っており、そうすることでせめて男を送り出すかのように思いなそう、との意が込められているとされます。

 
大伴四綱は、天平初年頃に防人司佑として大宰府に仕え、大伴旅人の部下だった人。『万葉集』には5首の短歌を残しており、他にも、巻第4-629のような女の立場での宴席歌があります。宴席歌は、初めは儀礼のものであったのが、次第に興味中心のものに移り変わり、宴の性質にもよりますが、ここの相聞の歌のように、諧謔味を含んだものが喜ばれるようになったとされます。
 


『万葉集』と霍公鳥

 『万葉集』集において霍公鳥(ほととぎす)は、植物の「橘(たちばな)」や「卯の花」とならび、夏の訪れを告げる最も重要な風物詩として数多く詠まれています。全4,500首を超える『万葉集』の中で、霍公鳥が登場する歌は150首以上にのぼり、鳥の部類では群を抜いて最多を誇ります。万葉人にとって霍公鳥は、単なる季節の鳥ということにとどまらず、多様な情念や美意識を託す存在でした。

  1. 初声を待つ情熱
    夏の訪れとともに最初に鳴く声(初声)を聞くことは、万葉人にとって大きな喜びでした。夜を徹して声を待ったり、声を聞くために山へ出かけたりする熱心な歌が数多く残されています。
  2. 橘・卯の花との美的な調和
    霍公鳥は、初夏に咲く花と強く結びつけて詠まれます。霍公鳥は、橘の花の香りを追って飛んでくるとされ、また、白く咲き誇る卯の花の垣根を飛ぶ姿は、初夏の初々しい景観として好まれました。
  3. 孤独・哀切と物思ひ
    霍公鳥の鳴き声は、どこか寂しげで切ない響きとして捉えられました。「夜鳴く鳥」としての側面もあり、独り寝の寂しさや、旅先での郷愁、物思いに沈む心に寄り添う存在としても詠まれています。

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『万葉集』クイズ

 それぞれの歌のの中に当てはまる語を、ひらがなで答えてください。

  1. 士やも空しくあるべき万代に語り継ぐべきは立てずして
  2. 子らが手を〇〇〇〇山に春されば木の葉凌ぎて霞たなびく
  3. ひさかたの天の〇〇山このゆふへ霞たなびく春立つらしも
  4. 春霞流るるなへに〇〇〇〇の枝くひもちて鶯鳴くも
  5. 冬ごもり〇〇さり来ればあしひきの山にも野にもうぐひす鳴くも
  6. 天の川〇〇立ちわたり彦星の楫の音聞こゆ夜の更けゆけば
  7. 天の海に雲の波立ち月の船星の〇〇〇に漕ぎ隠る見ゆ
  8. 天離る鄙に〇〇〇〇住まひつつ都のてぶり忘らえにけり
  9. 世のなかを憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ〇〇にしあらねば
  10. 若の浦に潮満ち来れば潟を無み葦辺をさして〇〇鳴き渡る


【解答】 1.な(名) 2.まきむく(巻向) 3.かぐ(香具) 4.あをやぎ(青柳) 5.はる(春) 6.きり(霧) 7.はやし(林) 8.いつとせ(五年) 9.とり(鳥) 10.たづ(鶴)

古典に親しむ

万葉集・竹取物語・枕草子などの原文と現代語訳。