| 訓読 |
1644
引き攀(よ)ぢて折(を)らば散るべみ梅の花(はな)袖(そで)に扱入(こき)れつ染(し)まば染むとも
1645
我(わ)がやどの冬木(ふゆき)の上(うへ)に降る雪を梅の花かとうち見つるかも
1646
ぬばたまの今夜(こよひ)の雪にいざ濡(ぬ)れな明けむ朝(あした)に消(け)なば惜(を)しけむ
1647
梅の花(はな)枝にか散ると見るまでに風に乱れて雪そ降り来る
| 意味 |
〈1644〉
枝を手繰り寄せて折ったら散ってしまいそうなので、梅の花を袖にしごいて入れた。袖が染まるなら染まってもよい。
〈1645〉
我が家の庭の冬枯れの木の上に降る雪を、梅の花かとふと眺めやったことだ。
〈1646〉
今夜の雪にさあ濡れよう。夜が明けた朝方に雪が消えていたら惜しいから。
〈1647〉
梅の花が枝に散り落ちるかと見紛うほどに、風に吹き乱されて雪が降ってくる。
| 鑑賞 |
1644は、三野連石守(みののむらじいそもり)の梅の歌。三野連石守は伝未詳ながら、天平2年(730年)に大伴旅人が大宰府から帰京する時の従者の一人でした。「引き攀ぢて」は、手繰り寄せて。「散るべみ」は「散るべし」のミ語法で、散ってしまいそうなので。「扱入れつ」の「扱入れ」は、コキイレの約。「扱く」は、隙間を無理やり通すようにして物を取り出すこと。「つ」は、完了の助動詞。「染まば染むとも」は、染まるなら染まってもよい。梅と雪を詠んできた一連の歌群の中で、雪の視覚的鑑賞から一転し、梅の花を手に取る行為を正面から詠んでいます。
1645は、巨勢朝臣宿奈麻呂(こせのあそみすくなまろ)の雪の歌。巨勢朝臣宿奈麻呂は、神亀5年(728年)外従五位下、天平元年(729年)従五位下、少納言、同5年に従五位上、同9年に左少弁。『万葉集』には2首。「やど」は、家の敷地、庭先。「冬木」は、冬枯れの木。「うち見つるかも」の「うち見る」は、ちらと見る意。「かも」は、詠嘆。雪を梅の花かと見たという類想の多い歌ですが、誇張や感情の高揚は抑えられ、「うち見つる」という軽い表現によって、ささやかな発見の喜びが余韻深く伝えられています。
1646は、小治田朝臣東麻呂(をはりだのあそみあづままろ)の雪の歌。小治田朝臣東麻呂は、伝未詳。「ぬばたまの」は「夜」の枕詞。「いざ濡れな」の「いざ」は、誘いかけの語。「な」は、他人に対する勧誘の助詞。「消なば」は、消えてしまったら。「惜しけむ」の「惜しけ」は「惜し」の未然形。「む」は、推量の助動詞。雪に触れて遊ぼうという発想には、自然美を逃すまいとする強い意識が感じられます。宴の夜の歌と見られます。
1647は、忌部首黒麻呂(いむべのおびとくろまろ)の雪の歌。忌部首黒麻呂は、天平宝字2年(758年)外従五位下、同3年に連(むらじ)の姓(かばね)を賜り、同6年に内史局助となる。『万葉集』には4首。「枝にか散ると」の「か」は、疑問。「見るまでに」は、見紛うほどに。この歌も雪を梅の花と見るという類想の多いものですが、「枝にか散る」と、風に乱れて降る雪の、枝にまつわりつつ降る微細なさまを捉えているのが作者の興となっています。しかし窪田空穂は、「微細を求めたにすぎないもので、結果から見れば効果的のものではない」と評しています。

官僚制度のしくみ
上代の中央官制は一般に「二官八省」と呼ばれ、まず最高行政機関として神祇官(じんぎかん)と太政官(だいじょうかん)とが置かれました。太政官の長官は太政大臣(臨時)で、これに次いで左大臣・右大臣が置かれ、その下に大納言、さらにその下に少納言・左弁官・右弁官が置かれました。左弁官の下には中務省・式部省・治部省・民部省の4省が、右弁官の下には兵部省・刑部省・大蔵省・宮内省の4省が置かれました。
わが国の上代の官制は中国の律令制の官制を導入したものですが、中国の官制と大きく異なる点は、太政官と対等な立場で神祇官を置いた点にあり、律令的官僚支配がまだ浸透していないわが国においては、祭祀による支配権の顕示が必要不可欠であったことを物語っています。
また、中央には二官とは別に「一台五衛府」と呼ばれる司法・警察組織が置かれました。すなわち風紀粛清・犯罪取り締まりを掌る弾正台(だんじょうだい)、宮中の警備、京中の巡検・追捕などを掌る衛門府(えもんふ)・左右衛士府・左右兵衛府です。
地方官制としては、都に左右京職が置かれ、官用の港がある摂津には摂津職が置かれ、北九州には大宰府が置かれ、北九州の警備と外交の職務にあたりました。国土は大和・山城・摂津・河内・和泉の五畿と、東海道・東山道・北陸道・山陽道・山陰道・南海道・西海道の七道に分けられ、国の下に郡が置かれ、国司・郡司が統治にあたりました。国司は中央から派遣され、郡司は多くは旧地方豪族がそのまま任命されました。
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