| 訓読 |
1976
卯(う)の花の咲き散る岡ゆ霍公鳥(ほととぎす)鳴きてさ渡る君は聞きつや
1977
聞きつやと君が問はせる霍公鳥(ほととぎす)しののに濡れてこゆ鳴き渡る
| 意味 |
〈1976〉
卯の花が咲き散る岡の上を、霍公鳥が鳴いて渡っていきましたよ、あなたは聞きましたか?
〈1977〉
鳴き声を聞いたかとお尋ねの霍公鳥は、びっしょりと濡れながら、ここから鳴いて渡っていきました。
| 鑑賞 |
問答歌(問いかけの歌とそれに答える歌によって構成される唱和形式の歌)。1976は妻が夫に贈った歌で、「咲き散る」という表現は、花が最盛期を迎えつつ、すでに散り始めていることを示し、時間の推移と無常感を一語で含み込んでいます。「岡ゆ」の「ゆ」は、~を通って。「さ渡る」の「さ」は、接頭語。霍公鳥が、私が住んでいる岡を通って、そちらへ鳴いて行きましたが、あなたは聞きましたかといって、夫のあわれを汲む心を問うと同時に、夫の自分に対する心の足りないのを織り交ぜていったものです。
1977は、夫が答えた歌。「問はせる」は「問ふ」の敬語。この一歩引いた言い方を用いることで、相手の思慕や気遣いを静かに浮かび上がらせており、二人の間にすでに心の交信が成立していることが暗示されます。「しののに」は「しとどに」の古語で、びっしょりと。「こゆ」は、ここを通って。雨か霧によってびっしょりと濡れた霍公鳥を、あわれを知る自分の涙に濡れて、の意でいっています。いずれの歌も、それぞれの気持ちを婉曲的に込め、技巧を凝らした味わい深い歌となっています。卯の花が散ると、霍公鳥はその地を去らねばならないと考えられていたようです。なお、双方に「君」とあることから、男同士が交わした歌とする見方があります。

ホトトギス
ホトトギス科の鳥で、鳩よりやや小さく全長27、8cm。頭と背が黒っぽい灰色、腹は白く、黒い黄斑があります。冬は南方で過ごし、日本へは初夏(5月ごろ)に渡来し、山から人里に来て鳴きます。鳴き声は、テッペンカケタカまたはトッキョキョカキョクなどと聞き馴らされています。万葉時代とくに後期以降に愛好され、集中に詠まれた鳥の中で最も多く、153首に歌われています。中でも大伴家持に64首もあり、こよなくホトトギスを愛したことが窺えます。
なお、『万葉集』でのホトトギスの表記は、一字一音で書く以外はすべて「霍公鳥」となっています。中国では一般に杜鵑、子規、杜宇などのほか多くの表記がありますが、霍公鳥はなく、出典が明らかではありません。これを音読すれば、クヮクコウ鳥であるため、郭公(かっこう)と何らかの関係があるものと考えられます。両者はともに鳴き声からつけられた名で、鳴き方はホトトギスが鋭く激しいのに対し、カッコウはのどかにゆったり鳴くので、対照的です。しかし、ともにホトトギス科に属し、体長はカッコウがやや大きい程度で、体形・体色それに托卵の習性など、多くの類似点があります。しかも『万葉集』には、あの親しみやすい鳴き声のカッコウを詠んだ歌が一首もないことが、古くから問題とされています。
そこで、万葉でいうホトトギスは、霍公鳥の文字からしても、実はカッコウではないかとか、両者を含むホトトギス科の鳥の総称であろうとか、あるいは当時はそれぞれを別の鳥とする認識がなく、同じ鳥が夜昼や雌雄または幼鳥と成鳥などの違いによってさまざまに鳴くと考えられていたのだろう、などと言われています。
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ウツギ
花が「卯の花」と呼ばれるウツギは、日本と中国に分布するアジサイ科ウツギ属の落葉低木。樹高は1~2.5メートルで、日当たりのよい山野にふつうに見られます。 花が旧暦の4月「卯~」に咲くのでその名が付いたと言われる一方、卯の花が咲く季節だから旧暦の4月を卯月と言うようになったとする説もあり、どちらが本当か分かりません。花は白色で、枝先に多くまとまってつけ、垂れ下がって咲かせます。ウツギは漢字で「空木」と書き、茎が中空なのでこの字が当てられています。初夏を代表する花として、万葉の時代にも親しまれてきました。
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古典に親しむ
万葉集・竹取物語・枕草子などの原文と現代語訳。 |