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巻第10(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第10-2004~2007

訓読

2004
己夫(おのづま)にともしき子らは泊(は)てむ津の荒礒(ありそ)巻きて寝(ね)む君待ちかてに
2005
天地(あめつち)と別れし時ゆ己(おの)が妻しかぞ離(か)れてあり秋待つ我(わ)れは
2006
彦星(ひこほし)は嘆かす妻に言(こと)だにも告げにぞ来つる見れば苦しみ
2007
ひさかたの天(あま)つ印(しるし)と水無(みな)し川(がは)隔(へだ)てて置きし神代(かみよ)し恨(うら)めし

意味

〈2004〉
 自分の夫に滅多に逢えない織女は、今宵もまた舟の着く港の荒磯を枕にして寝るのだろう、夫を待ちかねて。
〈2005〉
 天と地が分かれた遠い昔から、妻とこのように離れ離れに暮らしつつ、ひたすら秋が来るのを待っている、この私は。
〈2006〉
 嘆き悲しむ妻に、せめて言葉だけでも伝えようと思ってやって来た。逢うと辛いので。
〈2007〉
 大空の境界の目印として水無し川を置き、二人を隔ててしまった神代の定めがうらめしい。

鑑賞

 『柿本人麻呂歌集』から「七夕(しちせき)」の歌4首。2004の「己夫」は、織女の夫である牽牛。「ともしき」は、滅多に逢えない、珍しく思う。「子ら」の「ら」は接尾語で、織女を指します。「泊てむ」の「む」は、推量。「荒磯」は、石の多い水辺。「荒礒巻きて寝む」は、単独母音アを含む字余り句。「待ちかてに」の「かてに」は、~することができる意の動詞「かつ」の未然形「かて」に、打消しの助動詞「ぬ」の連用形「に」が付いたもの。待ちかねて。第三者の立場で、七夕の夜の織女を思いやった歌です。

 
2005の「天地と別れし時ゆ」の「ゆ」は、起点・経由点を示す格助詞。天地開闢の昔から。「己が妻」は、牽牛の妻である織女。「しかぞ離れてあり」の「しかぞ」は、このように、の意の係助詞構文。原文「然叙手而在」は、訓が定まらない部分で、シカゾテニアル、カクゾトシニアルなどと訓むものもあります。天地開闢を引く壮大な譬喩を通じて、逢えぬ妻を待ち続ける心を、宇宙的時間感覚の中で詠み上げた歌となっており、窪田空穂は、「調べの張ったさわやかな歌」と評しています。

 
2006の「嘆かす」は「嘆く」の敬語。「言だにも」は、言葉だけでも。「見れば苦しみ」は、逢うと辛いので。ただ、定説となっている上掲の解釈に対し、逢うのが辛いと言いつつ言葉を告げようというのは、対面を前提にしていることと意味が繋がらないとの批判から、「嘆き悲しむ妻に逢うとお互いに苦しいので、言葉さえ告げないで来た」のように解すべきとの説があります。

 
2007の「ひさかたの」は「天」の枕詞。集中50例ある枕詞で、天・雨・月などにかかりますが、語義・掛かり方とも未詳。「天つ印」は、天上の標識の意で、みだりに越えてはならないことを示す標識。「水無し川」は、地表を水が流れない川で、ここは天の川のこと。「隔てて置きし」は、意図的に隔離したという含意をもつ表現で、神の意思による分断を示します。「神代し」の「し」は、強意の助詞。神によって定められた隔絶への恨みを述べた歌です。
 


『万葉集』クイズ

 それぞれの歌のの中に当てはまる語を、ひらがなで答えてください。

  1. 君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ〇〇の火もがも
  2. 世の中は〇〇しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり
  3. 〇〇〇〇も金も玉も何せむに勝れる宝子に及かめやも
  4. 〇〇山と耳梨山と会ひしとき立ちて見に来し印南国原
  5. あかねさす紫野行き標野行き〇〇〇は見ずや君が袖振る
  6. 〇〇〇の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く
  7. 〇〇〇〇の明石大門に入らむ日や榜ぎ別れなむ家のあたり見ず
  8. 田子の浦ゆうち出でて見れば〇〇〇にぞ不尽の高嶺に雪は降りける
  9. 〇〇〇なきもの思はずは一坏の濁れる酒を飲むべくあるらし
  10. 〇〇〇〇を何に譬へむ朝開き漕ぎ去にし船の跡なきごとし


【解答】 1.あめ(天) 2.むな(空) 3.しろがね(銀) 4.かぐ(香具) 5.のもり(野守) 6.うねめ(采女) 7.ともしび 8.ましろ(真白) 9.しるし(験) 10.よのなか(世間)

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古典に親しむ

万葉集・竹取物語・枕草子などの原文と現代語訳。