| 訓読 |
2124
見まく欲(ほ)り我(あ)が待ち恋ひし秋萩(あきはぎ)は枝もしみみに花咲きにけり
2125
春日野(かすがの)の萩(はぎ)し散りなば朝東風(あさごち)の風にたぐひてここに散り来(こ)ね
2126
秋萩(あきはぎ)は雁(かり)に逢はじと言へればか [一に云ひ、言へれかも] 声(こゑ)を聞きては花に散りぬる
2127
秋さらば妹(いも)に見せむと植ゑし萩(はぎ)露霜(つゆしも)負(お)ひて散りにけるかも
| 意味 |
〈2124〉
早く見たいと私が待ち焦がれていた秋萩が、枝いっぱいに花を咲かせたよ。
〈2125〉
春日野の萩が散るならば、朝の東風に乗って、ここに散ってきておくれ。
〈2126〉
秋萩は、雁には逢わないと言うからか、雁の声が聞こえると花のまま散ってしまった。
〈2127〉
秋になったらあの子に見せようと植えた萩だが、冷たい露を浴びて散ってしまったよ。
| 鑑賞 |
作者未詳の「花を詠む」歌4首。2124の「見まく欲り」の「見まく」は「見む」のク語法で名詞形、見ること、見るだろうこと。「欲り」は、欲する。見たいと強く願う気持ちを率直に表す語です。「しみみに」は、繁く、隙間なくいっぱいに。待ち焦がれていた秋萩が、枝いっぱいに花を咲かせた喜びを詠んだもので、その喜びを誇張せず、「咲きにけり」という一語に収めることで、『万葉集』らしい節度ある感情表現が保たれています。
2125の「春日野」は、奈良市の東方、春日大社を中心とする広い領域。「萩し」の「し」は、強意の副助詞。「朝東風」は、朝の東風。「たぐひて」は、連れ立って、伴って。「来ね」の「ね」は、願望の終助詞。春日野という遠景と、「ここ」という近景とが対照され、花びらが風に乗って距離を越える動的な情景が描かれ、萩の散華に悲嘆するのではなく、風に託して自分の近くへ招き寄せるという、前向きで情緒豊かな発想が特徴的な一首です。萩を恋の相手に見立てると、この歌は、離れた場所にいる恋人あるいは別離した相手への思慕を、散る花に託して表したものと読めます。
2126の「雁に逢はじと」は、雁に逢うまいと。「花に散る」は、花として散る、実を結ばず花の状態のまま散ること。花に人の感情や判断を付与する大胆な擬人化であり、それにより、散るという自然現象が、自発的選択の結果のように感じられます。雁を男、萩を女と見ており、雁の来る頃に萩が散ってしまうところから、雁に逢う(結婚する)のを嫌がっている、すなわち、萩は、雁の到来によって自らの盛りが終わるのを知ってしまうので、と、その哀感をうたっています。
2127の「秋さらば」は、秋になると。「露霜」は、露と霜、または露が凍って霜のようになったもので、冷え冷えとした露を表現する歌語。この歌からは、庭を造って好きな植物を植え、それを人に見せて楽しむということが行われていたことが分かります。しかし作者は、萩の開花のころの逢瀬が叶わなかったのか、また失恋してしまったのか、それとも、恋人は故人になってしまったのでしょうか。それだと新しい挽歌となります。

『万葉集』に詠まれた植物
1位 萩 142首
2位 こうぞ・麻 138首
3位 梅 119首
4位 ひおうぎ 79首
5位 松 77首
6位 藻 74首
7位 橘 69首
8位 稲 57首
9位 すげ・すが 49首
9位 あし 49首
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それぞれの歌の〇の中に当てはまる語を、ひらがなで答えてください。
【解答】 1.つき(月) 2.なみ(波) 3.こと(言) 4.くも(雲) 5.よぶこどり(呼子鳥) 6.ひめゆり(姫百合) 7.ゆき(雪) 8.すだれ 9.しほ(潮) 10.がき(餓鬼)
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