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巻第10(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第10-2168~2172

訓読

2168
秋萩(あきはぎ)に置ける白露(しらつゆ)朝(あさ)な朝(さ)な玉としぞ見る置ける白露
2169
夕立ちの雨降るごとに [一云 うち降れば] 春日野(かすがの)の尾花(をばな)が上(うへ)の白露(しらつゆ)思ほゆ
2170
秋萩(あきはぎ)の枝もとををに露霜(つゆしも)置き寒くも時はなりにけるかも
2171
白露(しらつゆ)と秋萩(あきはぎ)とには恋ひ乱れ別(わ)くことかたき我(あ)が心かも
2172
我(わ)が宿(やど)の尾花(をばな)押しなべ置く露(つゆ)に手触れ我妹子(わぎもこ)散らまくも見む

意味

〈2168〉
 秋萩に置いている白露を、毎朝毎朝、玉と思って見ている。置いているその白露を。
〈2169〉
 夕立が降るたびに(さっと降ると)、春日野の尾花の上に降りる白露が思われる。
〈2170〉
 秋萩の枝がしなうほどに露霜が降りて、寒々と季節はめぐって来たことだ。
〈2171〉
 白露と秋萩とは、そのいずれにも恋しく心が乱れ、どちらがよいとも選びかねる私の心です。
〈2172〉
 庭先の尾花がたわむほどについた露に、手を触れてくれないか、わが妻よ。露がこぼれ落ちるのを見たいから。

鑑賞

 作者未詳の「露を詠む」歌5首。2168の「白露(しらつゆ)」は、漢語「白露」の翻読語。「朝な朝な」は、毎朝。「な」は「朝な夕な」「夜な夜な」のような時間を表す語の並列形に付いて副詞的用法を作る接尾語。「玉」は、美しい石、真珠。「白露」という語を冒頭と結句に配した反復構造が特徴的で、これにより、露そのものへの視線が強調され、読者の意識も自然と露の輝きに集中します。このように第2句を第5句で繰り返して強調するのは、歌謡に例の多い古形といわれ、この歌はそれに倣った宴歌だろうとされます。

 
2169の「春日野」は、奈良市の東方、春日大社を中心とする一帯。「尾花」は、ススキの穂。秋の代表的な景物。「白露思ほゆ」は、白露が自然と心に思い浮かばれる、という余情ある表現。自然が自然を呼び起こす連想の美を詠んだ一首で、前歌が「視覚的な美(玉と見る)」を中心にしているのに対し、本歌は「心に浮かぶ情景」を主とし、内面的・情緒的な深化が見られます。この2首を続けて読むことで、白露という同一の題材が、「見る美」から「思う美」へと展開していくことが理解できます。

 
2170の「枝もとををに」の「とをを」は、露の重みで枝が撓むさま。「露霜」は、露と霜、または露が凍って霜のようになったもので、冷え冷えとした露を表現する歌語。「寒くも時は」の語続きについて伊藤博は、「『時は寒くも』だと歌の調べが半減することを思うべし」と言っており、窪田空穂も、「一首の語続きに屈折があり、調べにも強さがあって、秋深く肌寒くなった気分をあらわしている」と述べています。「なりにけるかも」は、詠嘆をこめた完了表現。

 
2171の上2句は「白露と秋の萩とは」と訓むものもあります。「別く」は、分別する、判断する意。白露と秋萩の両方に心が引かれているとする上掲の解釈が定説ですが、「露」は「はかないもの」の比喩として用いられることはあっても、露を恋する歌は『万葉集』にも『古今集』にも例がないなどの理由から、「思ひ乱れ」の対象はあくまで作者の恋人(人間)であるとの見方があります。それによると、「目の前の白露と秋萩の関係は、恋い乱れてものの区別もつけ難い今の私の心に似ていることです」のような解釈になります。

 
2172の「宿」は、家の敷地、庭先。「尾花」はススキ。「押しなべ」は、押し伏せて。「散らまく」は「散らむ」のク語法で名詞形。この歌には、ほのかな恋情が感じられます。舞台は「我が宿」、相手は「我妹子」、行為は「手で触れる」というように、すべてが私的で親密な要素によって構成されています。そして、単なる自然観賞ではなく、愛しい人と自然の美を共有したいという気持ちの表明と読めます。
 


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第1位
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~額田王(巻1-20)
第2位
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第10位
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~大伯皇女(巻2-105)

~NHK『万葉集への招待』から

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