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巻第10(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第10-2193~2197

訓読

2193
秋風の日にけに吹けば水茎(みづぐき)の岡(をか)の木(こ)の葉も色づきにけり
2194
雁(かり)がねの来鳴(きな)きしなへに韓衣(からころも)龍田(たつた)の山はもみちそめたり
2195
雁(かり)がねの声聞くなへに明日(あす)よりは春日(かすが)の山はもみちそめなむ
2196
しぐれの雨(あめ)間(ま)なくし降れば真木(まき)の葉も争ひかねて色づきにけり
2197
いちしろく時雨(しぐれ)の雨は降らなくに大城(おほき)の山は色づきにけり

意味

〈2193〉
 秋風が日に増して吹いてくるので、岡の木の葉も色づいたことである。
〈2194〉
 雁が来て鳴くようになったのに伴い、龍田の山は色づき始めてきた。
〈2195〉
 雁の声が聞こえるようになったのに伴い、明日からは、春日山は色づき始めるだろう。
〈2196〉
 時雨の雨が絶え間なく降るので、真木の葉も、逆らいきれずに色づいてきた。
〈2197〉
 それほど激しく時雨の雨が降ったわけではないのに、大城の山はもう色づいてしまった。

鑑賞

 作者未詳の「黄葉(もみち)を詠む」歌5首。2193の「日にけに」は、日ごとに、日に日に。「水茎の」は「岡」の枕詞ながら、語義・かかり方は未詳。「色づきにけり」の「けり」は、気づきと詠嘆の助動詞。色づいてしまったのだなあ。高い山の黄葉を背後に、低い岡の木も黄葉したことを歌っており、時間の積み重なりによって進む秋の変化を静かに詠んだ一首です。

 
2194の「雁がね」は、雁。「なへに」は、とともに、と同時に。「韓衣」は、韓衣(大陸風の衣)を裁つ意から「龍田」の枕詞。「龍田の山」は、奈良県生駒郡三郷町立野の西方の山。「もみちそめたり」は、紅葉し始めた。本歌は、雁・龍田・紅葉という、後代和歌で定型化される秋の三大イメージを、すでに確立した形で示しており、古今集以降の「龍田の紅葉」の源流的存在といえるでしょう。

 
2195の「春日の山」は、奈良市東方の山地。「もみちそめなむ」の「なむ」は、確実性のある推量で、「そうなるはずだ」というような心情の表現。雁の声を秋到来の決定的な徴として受け止め、季節が次の段階へ進むことを予見する歌であり、これから始まる紅葉を詠んでいる点が特徴的です。

 
2196の「しぐれの雨」は、晩秋から初冬にかけて、降ったりやんだりする雨。秋の末を象徴する季語。「真木」は、杉や檜などの良質の木。「争ひかねて」は、時雨は木の葉を染めようとし、木の葉は染められまいとして争う、その争いに負かされて、の意。折り重なる雨が葉を色づかせる様子を、争えないとして情趣豊かに表現しています。季節の不可逆性を強く印象づける一首となっています。

 
2197の「いちしろく」は、はっきりと、目立って。「降らなく」は「降らぬ」のク語法で名詞形。「に」は逆接で、降らないのに。「大城山」は、大宰府の庁舎の東方にある大野山で、その山頂に城があったことによる名。紅葉の進行が、目に見える原因を超えて進んでいく様を詠んだ一首です。
 


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~NHK『万葉集への招待』から

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