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巻第10(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第10-2333~2336

訓読

2333
降る雪の空に消(け)ぬべく恋ふれども逢ふよしなしに月ぞ経(へ)にける
2334
沫雪(あわゆき)は千重(ちへ)に降り敷(し)け恋ひしくの日(け)長き我(わ)れは見つつ偲(しの)はむ
2335
咲き出照(でて)る梅の下枝(しづえ)に置く露(つゆ)の消(け)ぬべく妹(いも)に恋ふるこのころ
2336
はなはだも夜更(よふ)けてな行き道の辺(へ)の斎笹(ゆささ)の上に霜(しも)の降る夜(よ)を

意味

〈2333〉
 降る雪が空中で消え入ってしまう、そのように私も命が消えるほどに恋い慕っているのに、逢う方法もなく月を経てしまった。
〈2334〉
 沫雪よ、幾重にも降り積もってほしい。焦がれる日の長かった私は、雪を見ながらあなたを偲びます。
〈2335〉
 咲き出して照り輝く梅の、その下枝に降りた露が消え入るように、切なく彼女に恋い焦がれている今日このごろだ。
〈2336〉
 こんなにも夜が更けてから帰らないでください。道の辺の笹に霜が降りてくるようなこの夜に。

鑑賞

 2333・2334は『柿本人麻呂歌集』から「冬の相聞」の冒頭2首。2333の「降る雪の空に」は「消」を導く8音の序詞。「消ぬべく」は、消えてしまいそうなほどに。「恋ふれども」は、恋い慕ってはいるけれども。「逢ふよしなしに」は、逢う方法がなく。「月ぞ経にける」は深い嘆息で、月が経ってしまったことだ。ここの雪は、どんどん降り積もるような雪ではなく、地上にたどり着くまでに消えていくような雪で、恋人に逢う手段さえない自分の立場を、消えゆくはかない存在の雪に言寄せています。詩人の大岡信は「空間性の把握の仕方が、いかにも人麻呂 歌集らしい大きさがある」と評しています。

 
2334は、前歌の空の雪に対し、庭に降り積もる雪を捉えた歌。「沫雪」は、消えやすい淡雪。はかなさと同時に、視覚的な美しさを伴います。「千重に」は、幾重にも。「降り敷け」は、一面に降り重なれ。「恋ひしくの」の「し」は、過去の助動詞、「く」はこの語を名詞形にしたもので、恋しかったこと。「日長き我れは」は、日が長く続く私は。長い間恋い慕ってきた思いを厚く積もる雪に託そうとしていますが、沫雪はぼたん雪のような柔らかく溶けやすい雪なので、地面に落ちてもすぐに消えてしまったかもしれません。

 
2335は「露に寄せる」作者未詳歌で、男が女に贈った歌。「咲き出照る」は、咲き出て色美しく照り映える意。上3句は「消ぬ」を導く譬喩式序詞。「消ぬべく」は、今にも消えてしまいそうなほどに。恋の切なさを、身近な自然の一瞬に託した作品であり、「咲き出照る梅」に「妹」の姿を、「露」にはかない自分の姿を投影しているか。咲き始めた梅は生命力と喜びを象徴しますが、その足元の「下枝」に置かれた露は、きわめてはかない存在です。この対比が、恋の中にある希望と不安を同時に映し出しています。「消ぬべく妹に恋ふる」という表現は、恋心が弱まるというのではなく、恋する自分自身が消えてしまいそうなほど激しい思いを示していると読めます。序詞を設けて「消」にかかる歌は、類想の多いものです。

 
2336は「霜に寄せる」作者未詳歌。「はなはだも」は、ひどく、たいそう。「な行き」の「な」は、禁止。「斎笹」の「斎」は斎む(忌む)のユ(イ)で、霊威があらわれている状態をいっています。雨に当たるのを忌むのと同様に、天から降ってきた霜のついた斎笹も霊威が強く、触れるのを恐れており、女は男を脅して引き留めようとしています。伊藤博は、力感のある調べの中に、女の真率な情がよく出ていて、感の徹った佳作と評しており、窪田空穂は、「『甚も夜ふけて』といい、『霜の降る夜を』と繰り返して強調していって、他にはわたっていないのは、年久しい、和熟した夫婦関係を思わせて、その余情が味わいとなっている」と述べています。

 「通い婚」の時代にあって、このような、女が男の帰るのを惜しんでなるべく引き留めようとする歌はかなり多くあります。
斎藤茂吉は、万葉の歌はこのように実質的、具体的だからいいので、後世の「きぬぎぬのわかれ」的に抽象化してはおもしろくない、と言っています。
 


枕詞と序詞

 枕詞は和歌で使われる修辞技法の一つで、『万葉集』に多く見られます。ふつうは5音からなり、それぞれが決まった語について、語調や意味を整えたりします。ただし、枕詞自体は、語源や意味がわからないものが殆どです。

 序詞(じょことば)は和歌の修辞法の一つで、表現効果を高めるために譬喩・掛詞・同音の語などを用いて、音やイメージの連想からある語を導くものです。枕詞と同じ働きをしますが、枕詞が1句以内のおおむね定型化した句であるのに対し、序詞は一回的なものであり、音数に制限がなく、2句以上3、4句に及び、導く語への続き方も自由です。

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