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巻第10(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第10-2342~2346

訓読

2342
夢(いめ)のごと君を相見て天(あま)霧(ぎ)らし降りくる雪の消(け)ぬべく思ほゆ
2343
我(わ)が背子(せこ)が言(こと)うるはしみ出でて行かば裳引(もび)き知らえむ雪な降りそね
2344
梅の花それとも見えず降る雪のいちしろけむな間使(まつかひ)遣(や)らば [一に云ふ、降る雪に間使ひ遣らばそれと知らむな]
2345
天霧(あまぎ)らひ降りくる雪の消(け)なめども君に逢はむとながらへわたる
2346
うかねらふ跡見山雪(とみやまゆき)のいちしろく恋ひば妹(いも)が名(な)人知らむかも

意味

〈2342〉
 あなたにお逢いしたのが夢のようで、天を曇らせて降りくる雪のように、私は消え入りそうです。
〈2343〉
 あの人の言葉に引かれて、戸口から追って出て行ったら、裳を引きずった跡で人に知られてしまいます。だから雪よ、そんなに降らないで。
〈2344〉
 梅の花がどれなのかわからないほど降る雪のように、人目につくだろう、使いの人を送ったら(降る雪の中に使いを送ったら人は知ってしまうだろう)。
〈2345〉
 空が雲って降ってくる雪のように、命も消え入りそうになりますが、どうしてもあなたにお逢いしたい一心で、今日まで生きながらえております。
〈2346〉
 跡見山の雪のように、はっきりと目につくほどに恋い焦がれたら、あの子の名が人に知られてしまうのではなかろうか。

鑑賞

 作者未詳の「雪に寄せる」歌5首。2342の「夢のごと」は、夢のように。「君を相見て」は、あなたにお逢いして。ここは夢のような気分で君に逢った、つまり逢い方のはかなかったことを意味しているとされます。「天霧らし降りくる雪の」は「消」を導く譬喩式序詞。前掲の2340の歌と初2句が異なるのみで、3句以下が同じです。

 
2343の「言うるはしみ」の原文「言愛美」で、コトウツクシミと訓むものもあります。「うるはし」は気高いまでの美しさをいい、「うつくし」はいつくしみたいと思う心情を表します。「裳引」は、裳の裾が地を曳くさま。「知らえむ」は、人に知られよう。原文「將知」で、シルケムと訓んで「はっきり残ってしまうだろう」のように解するものもあります。「雪な降りそね」の「な~そ」は、懇願的な禁止、「ね」は願望。訪れた男を迎えに外に出ると、雪の上につく裳の跡で、二人の仲が他人に分かってしまうのを心配しています。

 
2344の「それとも見えず」は、どれが梅でどれが雪か区別がつかないという、六朝詩以来の漢詩的技巧(白と白の混同)が踏まえられています。上3句は「いちしろけむ」を導く譬喩式序詞。「いちしろけむな」の「けむ」は推量の助動詞で、、人目につくだろう、明白になるだろう。「間使」は、二人の間を往復し、恋の仲立ちをする使者。「遣らば」は、(使いを)送ったならばという仮定。女のもとへ遣いをやるのを躊躇している男の歌ですが、白一色の静寂と隠しきれない恋心を対比させた知的な一首であり、雪の白さを強調することで、逆に「恋の使い」という世俗的な存在の生々しさを際立たせ、忍ぶ恋の緊張感を見事に表現しています。

 
2345の「天霧ひ」の「天霧ふ」は「天霧る」の継続態。空が曇って暗くなることで、雪が激しく降る前兆や、その様子を表します。上2句は「消」を導く譬喩式序詞。「消なめども」は、雪が消えるように自分の命も尽きてしまいそうだけれど、の意。「ながらへわたる」の「ながらふ」は命を永らえること。「わたる」は時間の継続を表します。単に生きているのではなく、苦しみに耐えながら「ずっと生き延びてきた」という執念に近い響きがあります。男からひどく疎遠にされている女の歌であり、前歌が「人目を気にする忍ぶ恋」を描いたのに対し、本歌は「命を懸けた一途な恋」を詠い上げています。佐佐木信綱は「四五句極めて切実にして迫力に富み、上の序の類型的短所を償って余がある」と評しています。

 
2346の「うかねらふ」は、狩をする時に野獣の姿を窺い狙う意で、その足跡を見ることから「跡見」にかかる枕詞。「跡見山」は、桜井市の鳥見山とされます。上2句は「いちしろく」を導く譬喩式序詞。「いちしろく」は「いと白く」で、人目につく、明白になる。「人知らむかも」の「人」は、世間の人というより、他の男たちを意識していると見られ、作者は、自分の恋がバレること以上に、相手の女性の名前が知られてしまう(彼女に迷惑がかかる・彼女を失う)」ことを恐れています。これは2344番歌の「使いが目立つ」という心配を、より切実で具体的な「名の発覚」へと進化させているものです。
 


和歌の修辞技法

  • 枕詞(まくらことば)
    序詞とともに万葉以来の修辞技法で、ある語句の直前に置いて、印象を強めたり、声調を整えたり、その語句に具体的なイメージを与えたりする。序詞とほぼ同じ働きをするが、枕詞は5音句からなる。
  • 序詞(じょことば)
    作者の独創による修辞技法で、7音以上の語により、ある語句に具体的なイメージを与える。特定の言葉や決まりはない。
  • 掛詞(かけことば)
    縁語とともに古今集時代から発達した、同音異義の2語を重ねて用いることで、独自の世界を広げる修辞技法。一方は自然物を、もう一方は人間の心情や状態を表すことが多い。
  • 縁語(えんご)
    1首の中に意味上関連する語群を詠みこみ、言葉の連想力を呼び起こす修辞技法。掛詞とともに用いられる場合が多い。
  • 体言止め
    歌の末尾を体言で止める技法。余情が生まれ、読み手にその後を連想させる。万葉時代にはあまり見られず、新古今時代に多く用いられた。
  • 倒置法
    主語・述語や修飾語・被修飾語などの文節の順序を逆転させ、読み手の注意をひく修辞技法。
  • 句切れ
    何句目で文が終わっているかを示す。万葉時代は2・4句切れが、古今集時代は3句切れが、新古今時代には初・3句切れが多い。
  • 歌枕
    歌に詠まれた地名のことだが、古今集時代になると、それぞれの地名が特定の連想を促す言葉として用いられるようになった。

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