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巻第11(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第11-2775~2779

訓読

2775
山高み谷辺(たにへ)に延(は)へる玉葛(たまかづら)絶ゆる時なく見むよしもがも
2776
道の辺(へ)の草を冬野に踏み枯らし吾(われ)立ち待つと妹(いも)に告げこそ
2777
畳薦(たたみこも)隔(へだ)て編(あ)む数(かず)通(かよ)はさば道の芝草(しばくさ)生(お)ひずあらましを
2778
水底(みなそこ)に生(お)ふる玉藻(たまも)の生ひ出(い)でずよしこのころはかくて通はむ
2779
海原(うなはら)の沖つ縄海苔(なはのり)うち靡(なび)き心もしのに思ほゆるかも

意味

〈2775〉
 山が高いので、谷の辺に這っている蔓草のように、途絶えることなく逢える方法があればよいのに。
〈2776〉
 道端の草を冬野の枯れ草になるほど踏みつけ、じっと立って待っていると、誰かあの子に告げてほしい。
〈2777〉
 畳にする薦を何度も何度も繰り返して編む。その編目の数ほどにしばしば通って下さったならば、あなたの通う道に草が生い茂りはしなかったでしょうに。
〈2778〉
 水底に生える藻が水面に顔を出さないように、まあ当分はこのまま忍んで通うことにしよう。
〈2779〉
 海原の沖に生えている縄海苔がゆらゆら靡くように、私もあなたに靡き寄り、心がしおれるほどに恋しています。

鑑賞

 作者未詳の「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」5首。2775~2777は「草」に寄せての歌。2775の「山高み」は、山が高いので、の意のミ語法。「谷辺に延へる」は、上へはのぼらず谷の辺に這っている。「玉葛」の「玉」は美称で、美しく生命力にあふれた葛のつるを指します。上3句は、葛はどこまでも長く伸び、絡みつき、途切れることがないことから、「絶ゆる時なく」を導く譬喩式序詞。この序詞は類例が多くあります。「もがも」は、実現が難しいことに対して、〜があればいいなあ、〜であってほしいものだ、と強く切望する気持ちを表します。視覚的なダイナミズムのある歌で、男女どちらの歌とも取れます。

 
2776の「道の辺」は、ここは女の家の側の道の辺。「冬野に」は、冬野のごとくに。「踏み枯らし」は、踏んで枯れさせて、で、待ち時間の長さと一途な思いの激しさを強調する表現。「告げこそ」の「こそ」は、他者に対して「(どうか)伝えてほしい」と切に願う表現。その家の者の目を忍んで女に逢おうとする男の心で、独語したもののようです。『万葉集』には「立ち待つ」という言葉が多く出てきますが、その場所の風景を変えてしまう(踏み枯らす)ほど待つというのは、非常にドラマチックな演出です。

 
2777の「畳薦」は、薦を編んだ敷物。「畳薦」は、薦を編んだ敷物。「隔て編む数」は、薦に少しずつ間をあけて編み重ねる数。ここまでの2句は、数の多いことの譬えで、恋人が通ってくる回数の多さに重ねています。「通はさば」は敬語で、通ってくださったならば。「生ひざらましを」は反実仮想で、生えなかっただろうに。畳を編む作業は同じ作業を幾度も繰り返す根気のいる仕事であり、その作業のように男が精魂込めてまめに通ってくれなかったのを恨んでいる女の歌です。

 2778・2779は「藻」に寄せての歌。
2778の「玉藻」は、美しい藻。水中に隠れてゆらゆらと揺れている様子は、「秘められた恋」の象徴として『万葉集』でよく使われます。上2句は「生ひも出でず」を導く譬喩式序詞。「生ひも出でず」は、藻が伸びて水面に出ずの意で、人目を忍ぶことの比喩。「よし」は、仕方がない、ままよ、の意で、現状を肯定・容認する強い意志を含んだ感動詞的な表現。「かくて」は、このままで、このようにして。公に関係を認められずに通っている男の立場の歌で、「通はむ」という未来への意志で結ぶことで、隠れていることは消極的な逃げではなく、二人の仲を確実に守り育てるための積極的な手段であると宣言しています。

 
2779の上2句は「うち靡き」を導く譬喩式序詞。「沖つ縄海苔」は、沖の縄海苔。「縄海苔」は、縄状の細長い海藻で、ウミソウメンのことかと言います。「うち靡き」は、潮流に従って、抵抗することなくゆらゆらと横に流れる様子。これが、自分の意志ではどうにもならない恋の心細さや相手への従順な思いの比喩になっています。「心もしのに」は、心がしおれるさま。女の男を恋うる心を歌ったもので、類想の多い歌とされますが、これまでの「噂」や「通う頻度」といった具体的な状況設定から離れ、恋をしている自分自身の心の状態を純粋に写生しているものです。
 


ミ語法

 「ミ語法」とは、形容詞の語幹に語尾「み」を接続した語形を用いる語法。その意味は、「を」を伴うものは「を」が主格を表わし、「み」が原因や理由を表わすと考えられています。現存する文献の用例の大部分は『万葉集』であり、 上代以前に広く用いられたと考えられています。 中古以降は、擬古的表現として和歌にわずかに用いられました。

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万葉仮名・漢字表記の例

  • あかねさす・・・ 茜草指、茜刺、赤根指、安可祢佐須
  • あきづしま・・・ 蜻嶋、秋津嶋、安吉豆之萬
  • あしひきの・・・ 足日木乃、足日木能、足檜木乃、足引乃、足疾乃
  • あをによし・・・ 青丹吉、阿乎尒与斯、安乎尒与之、阿遠尒与志
  • うちひさす・・・ 打日指、宇知比佐受、撃日刺、内日左須
  • うつせみの・・・ 空蝉之、虚蝉之、打背見乃、宇都蝉之
  • こまにしき・・・ 高麗錦、狛錦、巨麻尒思吉
  • しきしまの・・・ 式嶋之、式嶋乃、礒城嶋能、志貴嶋、之奇嶋能
  • しきたへの・・・ 敷妙乃、敷細乃、志岐多閇乃、敷栲之
  • たらちねの・・・ 足乳根乃、垂乳根乃、足常、足千根乃
  • ちはやぶる・・・ 千磐破、千早振、千葉破
  • ぬばたまの・・・ 奴婆珠乃、烏玉之、野干玉乃、夜干玉之
  • ひさかたの・・・ 久堅乃、久堅之、久方乃、比佐迦多能
 
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