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巻第11(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第11-2812~2815

訓読

2812
吾妹子(わぎもこ)に恋ひてすべなみ白栲(しろたへ)の袖(そで)返ししは夢(いめ)に見えきや
2813
吾背子(わがせこ)が袖(そで)返す夜(よ)の夢(いめ)ならしまことも君に逢ひたるごとし
2814
吾(あ)が恋は慰めかねつま日(け)長く夢(いめ)に見えずて年の経(へ)ぬれば
2815
ま日(け)長く夢(いめ)にも見えず絶えぬとも吾(あ)が片恋(かたこひ)は止む時もあらじ

意味

〈2812〉
 あなたが恋しくてどうしようもなく、せめて夢で逢おうと袖を折り返して寝ましたが、私の姿はあなたの夢に見えたでしょうか。
〈2813〉
 あなたが袖を返して寝た夜の夢だったのですね。本当にあなたにお逢いしているようでした。
〈2814〉
 私の恋は慰めようがありません。来る日も来る日も夢にさえ見えてくれないまま年が経ってしまったので。
〈2815〉
 来る日も来る日も夢にさえも見えず、たとえ二人の仲が絶えようとも、私のこの片思いは止むときもありません。

鑑賞

 作者未詳の問答歌2組。2812は男の歌、2813はそれに答えた女の歌。2812の「すべなみ」は、どうしようもなくて、術がなくて。「白栲の」は「袖」の枕詞。「袖返す」は、寝る時に袖口を折り返すことで、袖を折り返して寝ると、思う人の夢が見られるという俗信があったようです。「見えきや」は、見えたでしょうか。万葉時代の人々にとって、夢は単なる脳内の現象ではなく、「魂の行き来」であると信じられていました。自分が相手の夢に出ることは、自分の魂が相手のもとへ飛んでいった証拠であり、また相手が自分の夢に出るのは、相手が自分を想ってくれているからだと解釈されていました。2813の「夢ならし」の「ならし」は「なるらし」の約で、夢であったに違いない。「まことも」は現実にも、本当に。作者は、自分の夢に現れた愛しい人の姿を、相手の深い愛情の証拠として受け取っています。

 2814は男の歌、2815はそれに答えた女の歌。
2814の「慰めかねつ」は、「慰める」+「かね(〜しにくい・できない)」+「つ(完了)」。自分の心を静めることがどうしてもできなかった。「ま日長く」の「ま」は接頭語、「日(け)」は、日の複数。「夢に見えずて」は、相手が夢に見えなくて。つまり相手がこちらを思えば夢に見えるという俗信から、相手が自分のことを思っていない故に報われないと訴えているもの。「年の経ぬれば」は、年が経ってしまったので。単なる時間の経過だけでなく、季節が巡ってもなお状況が変わらない絶望感を表します。2815の「止む時もあらじ」は、止む時はないだろう。「じ」は打消推量で、強い意志を含んだ否定を表します。上2句は、前歌の3、4句をそのまま取って歌っており、あなたの方こそ私を思ってくださらないではないかと、男の恨みの語を自身の恨みの語として逆にやり返したもの。
 


三大歌集の比較

万葉集

  1. 歌を呪術とする意識が残り、対象にはたらきかける積極的な勢いが、力強く荘重な調べとなる。
  2. 実感を抑えず飾らず大胆率直に表現する。簡明にして力強く、賀茂真淵は「ますらをぶり」と評する。
  3. 日常生活そのままでないにしても、現実の体験に即して歌うことが多く、具象的、写実的で印象が鮮明。
  4. 用語、題材についてすでに雅俗を分かつ意識が生じているが、なお生活に密着したものが比較的多く、素朴、清新の感をもって訴えかける。時に粗野。
  5. 五七調で、短歌は二句切れ、四句切れが多く、重厚な調べ。後期には七五調も現れる。歌謡の名残をとどめ音楽的効果をねらった同音同語の反復もある。
  6. 素朴な枕詞、序詞を多用。ほかに掛詞、比喩、対句を使用。
  7. 率直に表現するため、断言的な句切れが多い。終助詞による終止、詠嘆「も」「かも」を多用。

古今和歌集

  1. 宗教や政治を離れ、歌それ自体が目的となり、洗練された表現により美の典型をひたすら追求する。
  2. 感情を生のまますべてを表すことを避け、屈折した表現をとる。その婉曲さが優美繊細の効果を生む。
  3. 日常体験から遊離した花鳥風月や恋・無常など、情趣化された世界を機知に富んだ趣向や見立てにより表現する。理知がまさり、時に観念の遊戯に陥る。
  4. 優雅の基準にかなう題材を雅かなことばで詠ずるため、流麗であるが、単調となる弊がある。
  5. 七五調で、三句切れが多く、流暢な調べとなる。
  6. 掛詞、縁語の使用が多い。それらが観念的な連想を生み、虚実あるいは主従二様のイメージを交錯させ、纏綿たる情緒を楽しませる。掛詞がさらに進んでことばの遊戯となったものが物名であり、それで一巻をなす。ほかに枕詞、序詞、比喩、擬人法などを用いる。
  7. 理知的に屈折した表現をとるため、推量、疑問、反語による句切れが多い。助動詞による終止が目立つ。詠嘆の終助詞は「かな」を用いる。

新古今和歌集

  1. 乱世の現実を忌避し、王朝に憧れる浪漫的な気分が支配し、唯美的、芸術至上主義的な立場に立つ。
  2. 世俗的な感情を拒否し、「もののあはれ」という伝統的な感覚を象徴的な手法で縹渺とただよわせる。幽玄余情の様式を完成するが、時に晦渋に陥る。
  3. 客観的具象的な世界を浪漫的な心情風景に再構成し、現実を超えた絵画あるいは物語のごとき世界をつくる。
  4. 選び抜かれた素材を言語の論理性を超えた技巧によって表現し、幽玄妖艶の美、有心の理念を追求する。
  5. 七五調で、三句切れが多く、また初句切れも目立つ。
  6. 掛詞、縁語、比喩はかなり用いられるが、枕詞、序詞の使用は著しく減少する。古歌の句を借用しただけの単純な本歌取りは 古今集にもみられるが、新古今集では高度な表現技法にまで磨かれ、物語的な情緒を醸し出す象徴の手法として用いられる。
  7. 体言止めを多く用いる。

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古典に親しむ

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