| 訓読 |
2824
思ふ人(ひと)来(こ)むと知りせば八重葎(やへむぐら)覆(おほ)へる庭に玉(たま)敷(し)かましを
2825
玉敷ける家も何せむ八重葎(やへむぐら)覆(おほ)へる小屋(をや)も妹(いも)と居(を)りせば
2826
かくしつつ有り慰めて玉の緒(を)の絶えて別ればすべなかるべし
2827
紅(くれなゐ)の花にしあらば衣手(ころもで)に染(そ)め付け持ちて行くべく思ほゆ
| 意味 |
〈2824〉
お慕いしているあなたがおいでになると知っていましたら、雑草に覆われた庭をきれいにし、玉を敷いてお待ちしましたのに。
〈2825〉
玉を敷いた家が何になろうか、おまえとさえいれば、たとえ八重むぐらの生い茂った小屋でもいいのだ。
〈2826〉
こうしていつもそばにいて慰められているけれど、仲が途絶えて別れたらどんなにやるせないことでしょう。
〈2827〉
もしもあなたが紅の花であったなら、着物の袖に染め付けて持ち歩きたいほどに思っている。
| 鑑賞 |
作者未詳の問答歌2組。2824は女の歌、2825はそれに答えた男の歌。2824の「思ふ人」は、愛する人、待ち焦がれていた人。「八重葎」は、幾重にも重なって生い茂るつる草。手入れの届かない荒れた家の象徴。「玉」は、美しい小石。小石を敷くのは貴人を迎える時の礼とされていました。「~せば~まし」は、反実仮想。もし~だったならば~だろう。思いがけず恋人を迎えた時の喜びの歌です。「玉を敷けばよかった」という後悔の形をとっていますが、その本心は「あなたが来てくれて、飛び上がるほど嬉しい」という歓喜にあります。突然の訪問に対する驚きと、何の準備もできていなかった気恥ずかしさを、最高級の比喩(玉を敷く)で表現しています。2825の「何せむ」は、何になろうか。「妹と居りせば」は、あなたと一緒にいるならば。原文「妹与居者」で、イモトシヲラバ、イモトヲリテバなどと訓むものもあります。相手の語をそのまま捉え、典型的な答歌となっています。
2826は女の歌、2827はそれに答えた男の歌。2826の「かくしつつ」は、このようにしつつで、現在の夫婦関係を指したもの。「玉の緒の」は「絶ゆ」の比喩的枕詞。「絶えて別れば」は、仲が絶えて別れたならば。「すべなかるべし」は、やるせないことだろう。2827の「紅」は、べに花。「花にしあらば」の「し」は、強意の副助詞。「衣手」は、着物の袖。「染め付け持ちて」は、色を染み込ませて、自分のものとして持つ意。「行くべく思ほゆ」は、持って行くことができるのにと思われる。男が旅に出る際の悲別の歌のようであり、答歌として強いて添わせたものとする見方があります。

和歌の修辞技法
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