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巻第11(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第11-2833~2836

訓読

2833
葦鴨(あしがも)のすだく池水(いけみづ)溢(はふ)るとも設溝(まけみぞ)の辺(へ)に吾(われ)越えめやも
2834
大和(やまと)の室生(むろふ)の毛桃(けもも)本(もと)繁(しげ)く言ひてしものを成(な)らずは止(や)まじ
2835
真葛(まくず)延(は)ふ小野(をの)の浅茅(あさぢ)を心ゆも人引かめやも吾(わ)がなけなくに
2836
三島菅(みしますげ)いまだ苗(なへ)なり時(とき)待たば着ずやなりなむ三島菅笠(みしますげかさ)

意味

〈2833〉
 葦鴨の群がり騒ぐ池の水があふれ出ることがあっても、別に設けた溝の方に越えて行くなどということがあろうか。
〈2834〉
 大和の室生の毛桃、その根元がよく茂っているように、しげしげとあの子に言い寄ったものを、実らせずにおくものか。
〈2835〉
 葛が這っている浅茅を、本気になって引き抜こうとする人があろうか、私という者がいるのに。
〈2836〉
 三島の菅はまだ苗だ。といっても菅笠に編む時まで待っていたら、身に着けずに終わってしまわないか、その三島の菅笠を。

鑑賞

 「譬喩」とある作者未詳歌4首。2833は「水に寄せて」思いを譬えた男の歌。「葦鴨」は、葦辺に群れている鴨。「すだく」は、多く集まる。鴨が騒がしく鳴き立てる様子は、世間のうるさい噂や周囲の雑音の比喩です。池の水が溢れそうになるのは、そうした噂が今にも自分を飲み込もうとしている危機的な状況を指します。「設溝」は、あふれる水を流し出すために掘った溝。ここでは、越えてはならない一線を象徴しています。「吾越えめやも」の「や」は反語で、越えようか、越えはしない。「池水」を自身に喩え、他の女には心を移さないことに喩えて言っており、凛とした自尊心を歌い上げています。

 
2834は「果実に寄せて」思いを譬えた男の歌。「大和の室生」は、奈良県宇陀市室生。室生寺で有名な所。「毛桃」は、果皮に小毛(産毛)の密生している桃で、女の譬え。上2句は「本繁く」を導く譬喩式序詞。「本繁く」は、根元近くの小枝まで花や葉がびっしりついているさま。繁く言葉を交わしたこと掛けています。「言ひてしものを」は、言い寄ったのに。「成らずは止まじ」の「成る」は事が成立する意で、結婚の成就。「じ」は強い意志を表す助動詞で、死んでも諦めない、絶対にやり遂げるという、なりふり構わぬ決意が込められています。

 2835・2836は「草に寄せて」思いを譬えた男の歌。
2835の「ま葛延ふ」の「ま」は美称で、「野」の枕詞。「浅茅」は、背の低い茅(ちがや)のこと。「心ゆ」は、心の底から。「人引かめやも」の「人」は、恋敵、第三者。「引かめやも」は強い反語で、引こうか、引きはしない。「吾がなけなくに」の「なけ」は形容詞ナシの未然形、ナクは打消しの助動詞ズのク語法。私がいないわけではないのに、この私がしっかりついているのに。恋人を横取りされる不安を打ち消そうとする歌です。

 
2836の「三島」は、大阪府高槻市南部。「菅」は、菅笠の材料として有名でした。ここでは「三島菅」を女の喩えとし、「苗なり」は、その女がまだ幼いこと、「着る」を結婚することの譬喩とし、ただの菅が、人の手によって実用的な「笠」になる過程を、少女が成熟して魅力的な女性になる過程に重ねています。「着ずやなりなむ」は、着ないままで終わってしまうだろうか、いや、そんなはずはない。自分と結ばれないうちに他人が奪ってしまわないかと不安に思っている男の歌です。
 


巻第11と第12

 巻第11と第12は「古今相聞往来歌類」という名が付いていて、巻第11が上巻、第12が下巻という構成になっています。各巻のそれぞれの部立ては以下の通りになっています。

巻第11:古今相聞往来歌類上巻
(1)旋頭歌   15首(柿本人麻呂歌集の歌・古歌集)
(2)正述心緒  47首(柿本人麻呂歌集の歌)
(3)寄物陳思  94首(柿本人麻呂歌集の歌)
(4)問答     9首(柿本人麻呂歌集の歌)
(5)正述心緒  104首
(6)寄物陳思  193首
(7)問答    20首
(8)比喩    13首

巻第12:古今相聞往来歌類下巻
(1)正述心緒  10首(柿本人麻呂歌集の歌)
(2)寄物陳思  14首(柿本人麻呂歌集の歌)
(3)正述心緒  100首
(4)寄物陳思  193首
(5)問答    26首
(6)羇旅發思  53首
(7)悲別歌    31首
(8)問答     10首

 巻第11・12の歌は、巻第13と同じく全て「作者未詳歌」で、詞書もなく配列されている巻です。このためもあって、作成年代は、研究者の間でも確定していません。

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古典に親しむ

万葉集・竹取物語・枕草子などの原文と現代語訳。