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巻第12(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第12-3180~3184

訓読

3180
うらもなく去(い)にし君ゆゑ朝(あさ)な朝(さ)なもとなそ恋ふる逢ふとは無けど
3181
白栲(しろたへ)の君が下紐(したひも)我(わ)れさへに今日(けふ)結びてな逢はむ日のため
3182
白栲(しろたへ)の袖(そで)の別れは惜しけども思ひ乱れてゆるしつるかも
3183
都辺(みやこへ)に君は去(い)にしを誰(た)が解(と)けか我(わ)が紐(ひも)の緒(を)の結(ゆ)ふ手たゆきも
3184
草枕(くさまくら)旅行く君を人目(ひとめ)多み袖(そで)振らずしてあまた悔(くや)しも

意味

〈3180〉
 そっけなく旅立っていったあなたを思い、毎朝、毎朝、しきりに恋しくてなりません。逢えるわけではないのに。
〈3181〉
 あなたの下紐を、私も共に結びましょう。またお逢いする日のために。
〈3182〉
 からませた袖と袖を離れ離れにしてお別れするのは名残惜しいけれど、悲しさに心が乱れているうちに、とうとう行かせてしまった。
〈3183〉
 あなたは都に行ってしまったというのに、いったい誰が解こうとするのでしょう、すぐ解けてしまう私の着物の紐、この紐の緒を結び直すのがもどかしい。
〈3184〉
 草を枕の旅に出て行くあなたを、人目が多いので袖も振らずじまいに別れてしまい、どうしようもなく悔やまれます。

鑑賞

 作者未詳の「別れを悲しむ」歌5首。3180の「うらもなく」は、そっけなく、物思いもなく。「去にし君ゆゑ」は、行ってしまった君のせいで。「朝な朝な」は、毎朝毎朝。「な」は「朝な夕な」「夜な夜な」のような時間を表す語の並列形に付いて副詞的用法を作る接尾語。「もとなそ恋ふる」の「もとな」は、わけもなく、しきりに。「そ」は強意の係助詞で「恋ふる」が結びの連体形。「逢ふとは無けど」は、逢うということはないけれど。旅立つ夫が素っ気なく別れて行ったのを恨めしく思う妻の歌とされます。夫は別れの寂しさを隠すためにわざとそんな態度をとったのかもしれません。

 
3181の「白栲の」は「下紐」の枕詞。「我れさへに」は、私も一緒に。「結びてな」の「な」は、自身に対しての願望の助詞。「逢はむ日のため」は、また逢う日のために。『万葉集』には下紐をうたった歌が多く見られ、それらは共寝のときに互いに解き合うものであり、別れるときに互いに結び合うものでした。また、互いに相手の下紐を結びかわすのは、自分の魂を相手に添わせて一体とさせるためのおまじないでもありました。ただ、ここの歌は夫婦の場合ではないように感じられるとの見方があります。

 
3182の「白栲」は、楮(こうぞ)などの繊維で織った真っ白な布のことで、「白栲の」は「袖」の枕詞。男女の別れを「白栲の袖の別れ」と、美しく表現しています。「惜しけども」は「惜しけれども」の古格で、名残惜しいけれども。「思ひ乱れて」は、頭の中が真っ白になり、判断がつかないほど感情が激している様子。「ゆるしつるかも」の「ゆるし」は、ゆるめること、手放すこと。「つる」は、完了の助動詞「つ」の連体形。「かも」は、詠嘆の助詞。夫の旅立ちを許してしまった妻の嘆きの歌とされます。

 
3183の「都辺に」は、都の方へ。「君は去にしを」の「を」は逆接の接続助詞で、行ってしまったのに。「誰が解けか」は、(あなたがいない今)誰が解くというのか。「紐の緒」は、下着(肌着)を結ぶ紐のこと。「たゆきも」の「たゆき」は、もどかしい、疲れてだるい意。「も」は、詠嘆。「結ふ手たゆきも」の原文「結手懈毛」で、ムスブテウキモ、ユフテイタヅラニなどと訓むものもあります。都と地方とをつなぐ要路に、当時多くいた遊行女婦の一人の歌とみられ、心を寄せていた官人が都へ帰った後、他の多くの男に心ならずも接している嘆きをいったものとされます。

 
3184の「草枕」は「旅」の枕詞。「旅行く君を」の「を」は、逆接の接続助詞。~なのに、~だというのに。「人目多み」の「多み」は「多し」のミ語法で、人目が多いので。『万葉集』では、人目はしばしば恋路を邪魔する「障壁」として描かれます。「あまた」は、甚だ、非常に、どうしようもなく。「悔しも」の「も」は、詠嘆の助詞。愛する人の無事を祈るための唯一の動作を、世間の目のために放棄してしまった嘆きの歌で、太宰帥の大伴旅人が都に上るのを見送る筑紫の遊行女婦児島が「凡ならばかもかも為むを恐みと振り痛き袖を忍びてあるかも」(巻第6-965)と歌った心と似ており、あわれを感じさせます。



万葉歌の英訳

  • 春過ぎて夏来るらし白たへの衣干したり天の香具山(巻第1-28 持統天皇)
    Spring has passed, and summer's white robes air on the slopes of fragrant Mount Kagu-beloved of the gods.
  • わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも(巻第5-822 大伴旅人)
    Plum-blossoms scatter on my garden floor. Are they snow-flakes whirling down from the sky?
  • 世のなかを憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば(巻第5-893 山上憶良)
    In this sad world I feel small and miserable, but I cannot fly away as I am not a bird.
  • 天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ(巻第7-1068 『柿本人麻呂歌集』)
    Cloud waves rise in the sea of heaven. The moon is a boat that rows till it hides in a wood of stars.
  • 海原の沖辺に灯し漁る火は明かして灯せ大和島見む(巻第15-3648 遣新羅使)
    In the shoals of the vast sea brighten the lights the fishermen use for fishing, as I so long to see the Yamato mountains of my home.
  • 新しき年の始の初春の今日降る雪のいや重け吉事(巻第20-4516 大伴家持)
    On this New Year's Day which falls on the first day of spring, like the snow that also falls today, may all good things pile up and up without pause or end.

翻訳者:ピーター・マクミラン

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