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巻第12(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第12-3185~3189

訓読

3185
まそ鏡手に取り持ちて見れど飽(あ)かぬ君に後(おく)れて生(い)けりともなし
3186
曇(くも)り夜のたどきも知らぬ山越えて往(い)ます君をばいつとか待たむ
3187
たたなづく青垣山(あをかきやま)の隔(へ)なりなばしばしば君を言(こと)問(と)はじかも
3188
朝霞(あさがすみ)たなびく山を越えて去(い)なば我(あ)れは恋ひむな逢はむ日までに
3189
あしひきの山は百重(ももへ)に隠すとも妹(いも)は忘れじ直(ただ)に逢ふまでに [一云 隠せども君を思はくやむ時もなし]

意味

〈3185〉
 澄んだ鏡を手に取り持って見るように、いつまでも見飽きることのないあの方にとり残されて、生きている気もいたしません。
〈3186〉
 曇った真っ暗な夜のように、全く様子が分からない山を越えて行かれるあなた、そのあなたのお帰りをいつと思ってお待ちすればよいのでしょうか。
〈3187〉
 幾重にも重なる青垣のような山々に隔てられてしまったら、たびたびあなたにお便りをすることもできなくなるのではないでしょうか。
〈3188〉
 朝霞がたなびく山を越えて行ってしまわれたら、私は恋い焦がれるでしょう、お逢いできる日までずっと。
〈3189〉
 山が幾重にも重なって家を隠そうと、妻のことは忘れはすまい、直接逢える日までずっと。(隠そうと、あの方を思う心は休まる時もない)

鑑賞

 作者未詳の「別れを悲しむ」歌5首。3185の「まそ鏡」は、きれいに澄んではっきり映る白銅製の鏡。上2句は、鏡を手に取って見るところから「見れど」を導く序詞。「鏡を手に取って見る」という具体的で親密な動作は、相手を至近距離で見つめ続けていた幸福な時間を象徴しています。鏡は自分の姿を映すものですが、ここでは「鏡を見るように、あなたのことばかり見つめていた」という、自己と他者が一体化したような深い愛が表現されています。「見れど飽かぬ」の句は、柿本人麻呂歌が用いたのが最初(巻第1-36)で、いくら見ても見飽きることがないという最高の賛辞。「君に後れて」は、後に残されて。「生けりともなし」は、生きているとも思えない。

 
3186の「曇り夜」は、月も星も見えない、真っ暗な夜。「曇り夜の」は「たどきも知らぬ」の比喩的枕詞。「たどき」は、たづき、手がかり、様子。「山越えて」は、古代において山越えは、異界との境界を越えるような危険な行為であり、旅の苦難の象徴です。「往ます」は、行くの敬語。「いつとか待たむ」は、いつと思って待っていようか、で、期待薄の場合に言うことの多い語。夜に様子の知れない山を越えていつ帰るとも当てのない旅に出るというのはどういう事情によるのでしょうか。そのことには触れていないので分かりません。

 
3187の「たたなづく」は、幾重にも重なり合う。「青垣山」は、垣根のように取り囲む青々と茂った山々の意で、大和盆地を囲む山々を指すことが多い、美しい情景表現です。「隔りなば」は、間を隔てたならば。「しばしば」の原文「数」で、度数の多い意。「言問ふ」は、ここは音信を交わすこと。「かも」は、疑問。都の官人が地方官などとして赴任しようとする時に、妻が贈った歌とされます。

 
3188の「朝霞」は、朝方に立ち込める霞。旅立ちの朝の情景であり、視界を遮るおぼつかなさや、別れの切なさを演出します。「たなびく」は、(霞が)横に長く引いているさま。「越えて去なば」は、越えて行ってしまったならば。「我れは恋ひむな」の「む」は推量の助動詞、「な」は詠嘆の終助詞。「逢はむ日までに」は、(再び)会えるその時まで。早朝、国境の山を越えて旅立つ夫に贈った妻の歌とされます。

 
3189の「あしひきの」は「山」の枕詞。「百重」は、幾重にも重なること。物理的な距離と、重なり合う山々の層の厚さを強調します。「隠すとも」は、隠したとしても。「隠す」という擬人化に近い表現を使うことで、山という自然の障害を、恋路を邪魔する敵対的な存在として捉えています。「忘れじ」は、決して忘れないだろう。「じ」は強い打ち消しの推量・意志。「直に」は、直接。旅立つ夫が妻に誠実を誓って慰めた歌とされ、前の歌に対する答えの歌とも見られます。



枕詞の「あしひきの」について

 「あしひきの」は、「山」や「山」を含む語、「山」の類義語などにかかる枕詞ですが、語義・かかり方とも未詳です。表記も一字一音のものを除くと「足引」が多く、「足病」「足疾」などもあります。山はあえぎながら足を引いて登る意とか、山が裾を長く引く、あるいは山の裾野ではいろいろなもの(燃料としての木々や落ち葉、食用の植物など)が採れる意などとする考え方があります。 

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