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巻第12(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第12-3217~3220

訓読

3217
荒津(あらつ)の海(うみ)我(わ)れ幣(ぬさ)奉(まつ)り斎(いは)ひてむ早(はや)帰りませ面変(おもがは)りせず
3218
朝(あさ)な朝(さ)な筑紫(つくし)の方(かた)を出(い)で見つつ音(ね)のみそ我(あ)が泣くいたもすべなみ
3219
豊国(とよくに)の企救(きく)の長浜(ながはま)行き暮らし日の暮れ行けば妹(いも)をしぞ思ふ
3220
豊国(とよくに)の企救(きく)の高浜(たかはま)高々(たかたか)に君待つ夜(よ)らはさ夜(よ)更(ふ)けにけり

意味

〈3217〉
 荒津の海の神様に、私は幣を捧げ、身を清めてお祈りしましょう。早くお帰り下さい、旅やつれすることなくお元気な姿で。
〈3218〉
 毎朝毎朝、船上に出ては、筑紫の方を見て声を張り上げ泣くばかり、どうしようもないので。
〈3219〉
 豊国の企救の長い浜辺を日がな一日中歩き続け、日も暮れていくので、妻のことが思われてならない。
〈3220〉
 豊国の企救の高浜のように、高々と爪立ってあなたのお帰りを待っている夜は、もうすっかり更けてしまいました。

鑑賞

 作者未詳の「問答歌(問いかけの歌とそれに答える歌によって構成される唱和形式の歌)」2組。3217は、荒津の港から船出をして旅をする夫を見送る女の歌。3218は夫の答えた歌。3217の「荒津」は、福岡市中央区西公園付近にあった港。大宰府の外港で、遣新羅使などの外交船や官船が発着しました。「幣」は、神に祈るときの捧げ物。「斎ひてむ」の「斎ふ」は、吉事を祈って禁忌を守ること。「てむ」は、強い意志の助動詞。「早帰りませ」の「ませ」は、敬語。「面変わり」は、やつれて顔つきや様子が変わること。元気な姿でと言う健康への願いと、今のままのあなたで、という心の不変への願いが込められています。

 
3218の「朝な朝な」は、アサナアサナの約で、毎朝毎朝。「な」は「朝な夕な」「「夜な夜な」のような時間を表す語の並列形に付いて副詞的用法を作る接尾語。「音のみ泣く」は、声をあげて泣くばかりという強調表現。ここは強調の「そ」+連体形「泣く」の係り結びになっています。係助詞が「ぞ」ではなく「そ」となっているのは、『万葉集』などの古い時代の日本語の、「のみ」の語の後に「ぞ」が続くとき、清音化して「そ」になるという法則によります。「いたもすべなみ」は、何とも仕方がないので。旅に出てしばらく経って詠んだもののようです。

 3219は男の歌。3220は女の歌。
3219の「豊国」は豊前、豊後国(福岡、大分県)。「企救」は、北九州市の周防灘沿岸の地。「長浜」は、長く続く海岸線。「行き暮らし」は、一日中歩いて行くこと。「妹をしぞ思ふ」の「し・ぞ」はいずれも強意の助詞で、ここも連体形「思ふ」で結ぶ係り結びになっており、他の誰でもない、あなたを強く思っているという一途な感情が凝縮されています。

 
3220の「高浜」は、砂が高く盛り上がっている浜。上2句は「高々に」を導く同音反復式序詞。「高々に」は、待ち遠しく熱心に待つ様子。「夜ら」の「ら」は、音調を整える接尾語。「さ夜更けにけり」の「さ」は接頭辞で語調を整え、夜の静寂や深まりを強調します。「けり」という詠嘆の助動詞によって、ああ、もうこんな時間になってしまったという深い溜息のような諦念が響きます。なお、この歌は上の歌とのつながりがなく、同じ地名を詠んだ別の歌を並べたものとみられています。



序詞について

 序詞(じょことば)は和歌の修辞法の一つで、表現効果を高めるために譬喩・掛詞・同音の語などを用いて、音やイメージの連想からある語を導くものです。枕詞と同じ働きをしますが、枕詞が1句以内のおおむね定型化した句であるのに対し、序詞は一回的なものであり、音数に制限がなく、2句以上3、4句に及び、導く語への続き方も自由です。以下に序詞の用例を列記します。青色の句が序詞で、赤色の語句がそれに導かれた語です。

  • 香具山に雲居たなびきおほほしく相見し子らを後恋ひむかも(巻11-2449)
  • 風をいたみ甚振る波の間無くわが思ふ君は相思ふらむか(巻11-2736)
  • かにかくに人は言ふとも若狭道の後瀬の山ののちも逢はむ君(巻4-737)
  • かにかくにものは思はじ飛騨人の打つ墨縄のただ一道に(巻11-2648)
  • かはづ鳴く六田の川の川柳のねもころ見れど飽かぬ川かも(巻9-1723)
  • 河の上のいつ藻の花の何時も何時も来ませわが背子時じけねやも(巻4-491)
  • 紀の国の飽等の浜の忘れ貝われは忘れじ年は経ぬとも(巻11-2795)
  • 君が着る三笠の山に居る雲の立てば継がるる恋もするかも(巻11-2675)
  • 雲間よりさ渡る月のおほほしく相見し子らを見むよしもがも(巻11-2450)
  • 巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を(巻1-54) 

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古典に親しむ

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