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巻第14(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第14-3554~3557

訓読

3554
妹(いも)が寝(ぬ)る床(とこ)のあたりに岩ぐくる水にもがもよ入りて寝まくも
3555
麻久良我(まくらが)の許我(こが)の渡りの韓楫(からかぢ)の音(おと)高しもな寝(ね)なへ子ゆゑに
3556
潮船(しほぶね)の置かれば愛(かな)しさ寝(ね)つれば人言(ひとごと)繁(しげ)し汝(な)を何(ど)かもしむ
3557
悩(なや)ましけ人妻(ひとづま)かもよ漕(こ)ぐ舟の忘れはせなないや思(も)ひ増(ま)すに

意味

〈3554〉
 あの娘が寝ている床の辺りに、岩の間をくぐる水であったらなあ。ずっと潜り込んで一緒に寝ようものを。
〈3555〉
 麻久良我の許我の渡しの韓梶の音が高いように、噂が高くなってしまった。あの子と共寝をしたわけでもないのに。
〈3556〉
 潮船が潮が引いたあとの陸に置かれるように、あなたと離れていると切なくてたまらない。かといって、一緒に寝れば世間の噂がうるさい。ああ、あなたを一体どうしたらよいのだろうか。
〈3557〉
 悩ましい人妻であることよ。漕ぎ行く舟は遠ざかっていくが、この思いは忘れ去るどころか、いっそう増すばかりだ。

鑑賞

 3554の「床のあたりに」は、床の中に。「岩ぐくる」は、岩の間をくぐる、岩間から漏れて流れる。「水にもがもよ」の「もがもよ」は、願望の助詞「もがも」に、詠嘆の「よ」がついた形で、水であったらなあ。「入りて寝まくも」は、前歌(3553)の結句と同様。まだ公然と女との共寝を許されない男の、どこへでも行ける水を羨んでの激しい欲望の歌です。

 3555の「麻久良我」は、渡良瀬川が利根川と別れるところの茨城県古河市付近の地名。「許我の渡り」は、古河市と渡良瀬川をはさんだ対岸の埼玉県加須市の間の渡し場。「韓楫」は、大陸風の櫓ながら、どのような櫓かは不明。上3句は、韓楫の音が高く響くことから、「音高し」を導く譬喩式序詞。「音高しもな」の「もな」は、詠嘆の終助詞。音が大きいなあ、という意味ですが、転じて噂が高い(評判になっている)ことを指します。「寝なへ子ゆゑに」の「なへ」は、東語の打消しの助動詞。「ゆゑに」は、なのに、にもかかわらず、で、まだ一緒に寝ていない子なのに、という意味。

 3556の「潮船の」の「潮船」は、海を漕ぐ船。用いない時は陸に上げて置くことから「置く」にかかる枕詞。「置かれば愛し」の「置く」には、(船を)陸に残す意と(相手を)あとに残す=離れるの意が掛けられています。離れていると愛おしくてたまらないという意味です。「さ寝つれば」の「さ」は接頭語、「つれ」は完了の助動詞で、実際に共寝をすると、という意。「人言」は、世間の噂。「何(ど)かもしむ」は「あどかもせむ」の東国形で、「あ」が略されています。どうしたらいいのだろうの意。漁村に住む、恋に落ちた男の歌と見えます。

 3557の「悩ましけ」は「悩ましき」の訛り。「人妻かもよ」の「かもよ」は詠嘆の終助詞で、人妻だなあ。。「漕ぐ舟の」は、漕ぎ去っていく舟が次第に離れて遠ざかる意から、「忘れ」にかかる枕詞。「せなな」は、しないで、せずにの意。「いや思ひ増すに」の「いや」は、ますます、いっそう。「増すに」という逆説の余韻を残して結ばれています。忘れようとしているのに、逆に思いが増してしまうという心の矛盾を突いており、見るからに悩ましい人妻に心を寄せている男の独語です。
 


勘国歌と未勘国歌

 巻第14の「東歌」230首(或本歌を除く)のうち、国名を明らかにするものが前半に、不明の歌が後半に置かれており、後半を「未勘国歌」と呼んでいます。この呼び名は、目録に「未勘国雑歌」などとあるのによりますが、元々は、巻末に「以前の歌詞は、未だ国土山川の名を勘へ知ることを得ず」とあることに発しているものです。そこから、前半を「勘国歌」とも呼んでいます。

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『万葉集』を学ぶ意義

  1. 日本語・日本文化の源流を知る
    『万葉集』は、8世紀に編まれた日本最古の和歌集であり、日本語の成り立ちを知る上で極めて重要な資料です。当時の言葉づかいや表現から、「日本語の原型」や「感性の根源」を読み取ることができます。
  2. 古代人の心や生活への理解
    『万葉集』は宮廷歌集という位置づけであるものの、天皇、皇族、貴族のみならず、東歌・防人歌などの衆庶の歌も収められています。恋、自然、別れ、旅など、人々の思いが率直に表現されており、1300年以上前の人間の感情が、現代にも通じる普遍性をもって響きます。
  3. 文学としての美しさと表現力
    自然の描写や感情表現の豊かさは、後の『古今和歌集』や『源氏物語』などの古典文学に大きな影響を与えました。「ことばで情景を描く力」「短い詩で心を伝える美意識」など、日本文学の本質に触れられます。
  4. 現代社会とのつながり
    『万葉集』の価値観は、「自然との共生」「素直な感情の表現」「多様性の尊重」など、現代にも通じるテーマを含んでいます。また、令和という元号も『万葉集』の一節から取られたことで、再び注目を集めています。
  5. まとめ
    『万葉集』を学ぶことは、日本語の原点を知り、人間の普遍的な心を感じることです。それは単なる古典の学習ではなく、現代の私たちの生き方や感性を深める学びでもあります。
古典に親しむ

万葉集・竹取物語・枕草子などの原文と現代語訳。