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巻第14(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第14-3572~3576

訓読

3572
何(あ)ど思(も)へか阿自久麻山(あじくまやま)の弓絃葉(ゆづるは)の含(ふふ)まる時に風吹かずかも
3573
あしひきの山葛蘿(やまかづらかげ)ましばにも得(え)がたき蘿(かげ)を置きや枯(か)らさむ
3574
小里(をさと)なる花橘(はなたちばな)を引き攀(よ)ぢて折らむとすれどうら若(わか)みこそ
3575
美夜自呂(みやじろ)のすかへに立てるかほが花な咲き出(い)でそね隠(こ)めて偲(しの)はむ
3576
苗代(なはしろ)の小水葱(こなぎ)が花を衣(きぬ)に摺(す)り馴(な)るるまにまに何(あ)ぜか愛(かな)しけ

意味

〈3572〉
 いったい何をぐずぐずしているのか、阿自久麻山のユズリハがまだ蕾(つぼみ)の時だからといって、風が吹かないなんてことがあるものか。
〈3573〉
 ヒカゲノカズラは滅多に得られないのに、むざむざ置きっぱなしにして枯らしてしまってよいものか。
〈3574〉
 小里に咲く橘の枝を引き寄せて折り取ろうとするのだが、あまりに若々しいので、どうしようかとためらわれる。
〈3575〉
 美夜自呂の海沿いの砂地に生えているかおが花よ。人目につくようにぱっと咲き出ないでくれ。こっそりと愛したいから。
〈3576〉
 苗代に交じって咲く小水葱(こなぎ)の花を、衣に染めて着ていたら、着慣れるにしたがってどうして愛しくなるのだろう。

鑑賞

 3572の「何ど思へか」は、何と思ってか。「あど」は「何と」の東語。「阿自久麻山」は、所在未詳。「弓絃葉」はユズリハ。春、枝先に若葉が出て、初夏、その下に小花が咲きます。「含まる時」は、葉や花がまだ開き切らないでいる時。「含(ふふ)む」は、もともと口の中に何かを入れる意で、その口がふくらんだ様子から蕾がふくらむ意に転じた語で、ここでは、女が若く幼いことの譬え。「風吹かずも」は、風が吹くのであろうか。他の男が言い寄ることの譬え。「かも」は、詠嘆の助詞。女へのアプローチをためらっている男に、他の男が言い寄るぞと、第三者がけしかけている歌と見えます。

 3573の「あしひきの」は「山」の枕詞。「山葛蘿」は、ヒゲノカズラ。常緑の草本として、古来神聖清浄なものとされ、神事に用い、また鬘(かずら)として髪飾りにも用いられました。ここでは、手に入れがたい女に譬えています。「ましばにも」の「ま」は接頭語で、めったに、しばしばもの意。「置きや枯らさむ」は、置きっぱなしにして枯らそうか、枯らしはしない。「や」は疑問・反語を表す係助詞で、「枯らさむ」の「む」が推量の助動詞「む」の連体形で結び。この歌について窪田空穂は次のように説明しています。「『山葛蘿』は、女の譬喩で、その物の性質上、神職をしている巫女を指しているのであろう。そうした女に心を動かした男が、女の職分柄、妻とはなし難いものとして、しかしその美しさを惜しんでの歎息である」。

 3574の「小里なる」は、小さな里にある。「小」は接頭語で、女性の住む村里を親しんで言った語。「花橘を引き攀ぢて折らむ」の「花橘」は、花の咲いている橘の称で、古来、その香りの良さと純白の美しさから愛でられました。ここでは若く美しい女性の比喩です。「引き攀づ」は、掴んでたぐり寄せる意で、女性を我が物にすることの喩え。「うら若みこそ」は、まだ若いので。「こそ」は強調の係助詞で、あとに「折るのがためらわれる」というような気持ちが省略されています。上代においても、結婚年齢に達しない少女に触れることはタブーとされていたようです。

 3575の「美夜自呂」は、地名とされますが所在未詳。「すかへ」は、川や海の砂地。「かほが花」は、ヒルガオとする説がありますが、未詳。ここでは人目を引く美しい女性の比喩「な咲き出でそね」の「な~そ」は懇願的な禁止で、咲き出さないでほしい。「隠めて偲はむ」は、人に隠れてこっそり思っていよう。花に対して「咲き出さないでほしい」という願いは酷ですが、恋の歌としては非常に情熱的であり、忍び妻を持つ男の、自分だけ独り占めしようという気持ちが込められた歌のようです。

 3576の「苗代の」は、苗代に生えている。「小水葱」は、水田に自生するミズアオイ科の一年草で、青紫色の小さな花を咲かせます。「衣に摺り」は、いわゆる摺り染めで、女に手を出したこと、関係を持ったことの喩え。「馴るるまにまに」の「まにまに」は、つれて、したがって、で、着慣れるにつれての意。情交が久しくなったことの喩え。「何ぜか愛しけ」の「何ぜか」は「どうして~か」の東語。「愛しけ」は「愛しき」の訛り。なぜ、こんなに愛おしいのだろうか。
 


『万葉集』各巻の部立て(巻第11~20)

  • 巻第11・巻第12
    部立てなし
  • 巻第13
    ① 雑歌 (3221番~3247番)
    ② 相聞 (3248番~3304番)
    ③ 問答 (3305番~3322番)
    ④ 譬喩歌 (3323番)
    ⑤ 挽歌 (3324番~3347番)
  • 巻第14(東歌)
    ① 雑歌 (3348番~3352番)
    ② 相聞 (3353番~3428番)
    ③ 譬喩歌 (3429番~3437番)
    ④ 雑歌 (3438番~3454番)
    ⑤ 相聞 (3455番~3566番)
    ⑥ 防人歌 (3567番~3571番)
    ⑦ 譬喩歌 (3572番~3576番)
    ⑧ 挽歌 (3577番)
  • 巻第15
    部立てなし
  • 巻第16
    由縁有る雑歌
  • 巻第17~20
    部立てなし

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