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巻第16(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第16-3806

訓読

3806
事しあらば小泊瀬山(をはつせやま)の石城(いはき)にも隠(こも)らばともにな思ひ我(わ)が背(せ)

意味

〈3806〉
 二人の仲を妨げるようなことが起こったら、あの泊瀬山の岩屋に葬られるなら葬られるで、私もずっと一緒にいます。ですから心配なさらないで、あなた。

鑑賞

 左注に「この歌には言い伝えがある」として次のような説明があります。ある時、一人の娘子がいた。父母に知らせず、ひそかにある男と交わった。男は女の両親の怒りを恐れ、だんだん弱気になってきた。そこで娘子はこの歌を作って男に贈り与えたという。「贈り与ふ」とあることから、ここも3803のように娘子の方が男より身分が高かったものと見られます。

 「事しあらば」の「し」は強意の副助詞で、二人の結婚に何かの障害が起こったら。「小泊瀬山」の「小」は美称で、奈良県桜井市初瀬にある山。「泊瀬」は葬地として知られていて、泊瀬山は共同墓地となっていました。「石城」は、墓のことで、石室を連想させます。従って石城に葬られるのは、しかるべき身分の者に限られていたといいます。「隠らばともに」は、隠れるのであれば、あなたと一緒に。「な思ひ」の「な」は、懇願的な禁止。通常、禁止の「な~そ」という形が多い中で、この歌は「な思ひ」という形で終わっており、古い形の禁止・懇願の語法です。

 この歌には類歌があり、『常陸風土記』に「こちたけば小泊瀬山の石城にも率て隠らなむ恋ひそ吾妹」という、男が女に言った歌が載っています。いわば「偕老洞穴」の誓いの歌ですが、ここの話の主旨は、歌が示すように、一度決心して踏み切った以上、男のようにおろおろしてはならぬ、娘子のきりっとした態度こそ大切だというものなのでしょう。また、いざとなった時の女の強さが際立つ歌でもあります。同じようなのに、
安倍女郎による「我が背子は物な念ほし事しあらば火にも水にも我がなけなくに」(巻第4-506)という歌があります。
 


語句の意味あれこれ

  • あづきなく
     不甲斐なく、分別なく
  • あやに
     言いようがないほど
  • うつくし(愛し)
     可愛らしい、愛らしい、愛おしい
  • うるはし(愛し)
     すばらしい、立派だ、整っている
  • おほほしく
     ほのかに、おぼろげに
  • かぐはし(香し)
     優れて、立派である、香りがよい
  • かけまく
     口に出して言うこと
  • きこしをす(聞こし食す)
     お治めになる
  • くはし(細し/麗し/妙し)
     細部まで精妙で完璧・完全である
  • ここだく
     こんなに甚だしく
  • こころぐき(心ぐき)
     心が鬱々として晴れない
  • こちたし(言痛し)
     わずらわしい
  • ことあげ(言挙げ)
     言葉を発すること
  • ことどひ(言問ひ)
     言葉を交わすこと、語らい
  • さにつらふ(さ丹つらふ)
     紅顔の
  • しかすがに
     そうではあるが、しかしながら
  • しまし
     しばらく、少しの間
  • すべをなみ
     どうしようもないので

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