| 訓読 |
3806
事しあらば小泊瀬山(をはつせやま)の石城(いはき)にも隠(こも)らばともにな思ひ我(わ)が背(せ)
| 意味 |
〈3806〉
二人の仲を妨げるようなことが起こったら、あの泊瀬山の岩屋に葬られるなら葬られるで、私もずっと一緒にいます。ですから心配なさらないで、あなた。
| 鑑賞 |
左注に「この歌には言い伝えがある」として次のような説明があります。ある時、一人の娘子がいた。父母に知らせず、ひそかにある男と交わった。男は女の両親の怒りを恐れ、だんだん弱気になってきた。そこで娘子はこの歌を作って男に贈り与えたという。「贈り与ふ」とあることから、ここも3803のように娘子の方が男より身分が高かったものと見られます。
「事しあらば」の「し」は強意の副助詞で、二人の結婚に何かの障害が起こったら。「小泊瀬山」の「小」は美称で、奈良県桜井市初瀬にある山。「泊瀬」は葬地として知られていて、泊瀬山は共同墓地となっていました。「石城」は、墓のことで、石室を連想させます。従って石城に葬られるのは、しかるべき身分の者に限られていたといいます。「隠らばともに」は、隠れるのであれば、あなたと一緒に。「な思ひ」の「な」は、懇願的な禁止。通常、禁止の「な~そ」という形が多い中で、この歌は「な思ひ」という形で終わっており、古い形の禁止・懇願の語法です。
この歌には類歌があり、『常陸風土記』に「こちたけば小泊瀬山の石城にも率て隠らなむ恋ひそ吾妹」という、男が女に言った歌が載っています。いわば「偕老洞穴」の誓いの歌ですが、ここの話の主旨は、歌が示すように、一度決心して踏み切った以上、男のようにおろおろしてはならぬ、娘子のきりっとした態度こそ大切だというものなのでしょう。また、いざとなった時の女の強さが際立つ歌でもあります。同じようなのに、安倍女郎による「我が背子は物な念ほし事しあらば火にも水にも我がなけなくに」(巻第4-506)という歌があります。

語句の意味あれこれ
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