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巻第16(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第16-3832~3834

訓読

3832
からたちの茨(うばら)刈(か)り除(そ)け倉(くら)建てむ屎(くそ)遠くまれ櫛(くし)造る刀自(とじ)
3833
虎(とら)に乗り古屋(ふるや)を越えて青淵(あをふち)に蛟龍(みつち)捕(と)り来(こ)む剣太刀(つるぎたち)もが
3834
梨(なし)棗(なつめ)黍(きみ)に粟(あは)つぎ延(は)ふ葛(くず)の後(のち)も逢はむと葵(あふひ)花咲く

意味

〈3832〉
 カラタチの茨を刈り取って倉を建てよう。屎は遠くでやってくれ、櫛作りのおばさんよ。
〈3833〉
 虎に乗って古屋を飛び越えて、青淵に棲む蛟龍(みづち)を生け捕りできる、そんな剣太刀がほしいものよ。
〈3834〉
 梨(なし)、棗(なつめ)、黍(きび)に続いて粟(あわ)が実り、それからまた、延び続ける葛(くず)のようにその後も逢いたいと、葵(あおい)の花が咲いている。

鑑賞

 3832は、忌部首(いむべのおびと)が数種の物を詠んだ歌。「名は忘失した」との注記がありますが、3848の忌部首黒麻呂(いむべのおびとくろまろ)と同一人とされます。同じ巻でありながらこうした不統一が生じているのは、この歌が違う編者によって追補されたためと見られています。黒麻呂は、天平宝字2年(758年)に外従五位下となった人。「茨」は、とげのある小木の総称。「まれ」は、大小便をすること。「刀自」は、主婦に対しての敬称。宴席で戯れに詠んだ歌とされますが、内容は当時の世相が窺えるものです。高床型の倉は、税として徴収した稲や武器などを保管する建物で、国家権力の象徴でもありました。その建設予定地であるカラタチの原で用を足している婦人に役人が声をかけます。「そこらへんは倉を建てるところだから、遠くでしろ」と。詠んだ数種の物とは「からたち・茨・倉・屎・櫛」の5つで、第1~3句にカラ・ウバラ・クラの末音、第3~5句にクラ・クソ・クシの頭音を揃えています。

 3833は、境部王(さかいべのおおきみ)が数種の物を詠んだ歌。境部王は穂積親王の子とあり、『万葉集』にはこの1首のみですが、『懐風藻』に詩を2つ残しています。ここも各句1つずつ「虎・古屋・青淵・蛟龍・剣太刀」を詠んでおり、どうやら恐ろしいものを取り合わせた歌のようです。「虎」は日本にはいませんから、大陸伝来の絵図などから想像したのでしょう。古屋がなぜ恐ろしいのか疑問に思いますが、昔は、人が住まない古屋や廃屋には鬼が住むとして忌避され、「虎や狼より古屋の雨漏りのほうが怖い」という諺もあったといいます。「青淵」は深く水をたたえて青く見える淵。「蛟龍」は、水の霊で竜に似た想像上の動物。「蛟」は、蛇に似て4本足だといいます。

 3834は、6種の植物を取り合わせた作者未詳歌。「黍に粟つぎ」は、黍に粟が続いて。「黍に粟」は、「君に逢はず」の意を掛けています。「延ふ葛の」は、長く這い伸びる葛のように。這う葛が別れてもまた逢う意で「後も逢はむ」にかかる枕詞。「葵(あふひ)」は「逢ふ日」を掛けています。植物の名前を借り、その掛詞によって「君に逢いたい」という気持ちを滑り込ませています。宴歌として詠まれたものかもしれず、その技巧などから見て、知識人の作と見られています。
 


各巻の主な作者

  • 巻第1
    雄略天皇/舒明天皇/中皇命/天智天皇/天武天皇/持統天皇/額田王/柿本人麻呂/高市黒人/長忌寸意吉麻呂/山上憶良/志貴皇子/長皇子/長屋王
  • 巻第2
    磐姫皇后/天智天皇/天武天皇/藤原鎌足/鏡王女/久米禅師/石川女郎/大伯皇女/大津皇子/柿本人麻呂/有馬皇子/長忌寸意吉麻呂/山上憶良/倭大后/額田王/高市皇子/持統天皇/穂積皇子/笠金村
  • 巻第3
    柿本人麻呂/長忌寸意吉麻呂/高市黒人/大伴旅人/山部赤人/山上憶良/笠金村/湯原王/弓削皇子/大伴坂上郎女/紀皇女/沙弥満誓/笠女郎/大伴駿河麻呂/大伴家持/藤原八束/聖徳太子/大津皇子/手持女王/丹生王/山前王/河辺宮人
  • 巻第4
    額田王/鏡王女/柿本人麻呂/吹黄刀自/大伴旅人/大伴坂上郎女/聖武天皇/安貴王/門部王/高田女王/笠女郎/笠金村/湯原王/大伴家持/大伴坂上大嬢
  • 巻第5
    大伴旅人/山上憶良/藤原房前/小野老/大伴百代
  • 巻第6
    笠金村/山部赤人/車持千年/高橋虫麻呂/山上憶良/大伴旅人/大伴坂上郎女/湯原王/市原王/大伴家持/田辺福麻呂
  • 巻第7
    作者未詳/柿本人麻呂歌集
  • 巻第8
    舒明天皇/志貴皇子/鏡王女/穂積皇子/山部赤人/湯原王/市原王/弓削皇子/笠金村/笠女郎/大原今城/大伴坂上郎女/大伴家持
  • 巻第9
    柿本人麻呂歌集/高橋虫麻呂/田辺福麻呂/笠金村/播磨娘子/遣唐使の母
  • 巻第10~13
    作者未詳/柿本人麻呂歌集
  • 巻第14
    作者未詳
  • 巻第15
    遣新羅使人等/中臣宅守/狭野弟上娘子
  • 巻第16
    穂積親王/境部王/長忌寸意吉麻呂/大伴家持/陸奥国前采女/乞食者
  • 巻第17
    橘諸兄/大伴家持/大伴坂上郎女/大伴池主/大伴書持/平群女郎
  • 巻第18
    橘諸兄/大伴家持/大伴池主/田辺福麻呂/久米広縄/大伴坂上郎女
  • 巻第19
    大伴家持/大伴坂上郎女/久米広縄/蒲生娘子/孝謙天皇/藤原清河
  • 巻第20
    大伴家持/大原今城/防人等

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