| 訓読 |
3914
ほととぎす今し来鳴かば万代(よろづよ)に語り継ぐべく思ほゆるかも
3915
あしひきの山谷(やまたに)越えて野づかさに今は鳴くらむうぐひすの声
| 意味 |
〈3914〉
ホトトギスよ、ちょうど今来て鳴いたならば、万代の後までも語り継ぐであろうと思われるのだがなあ。
〈3915〉
山や谷を越えてきて、今ごろ野の丘で鳴いているのだろう、ウグイスの声よ。
| 鑑賞 |
3914は、題詞に「霍公鳥(ほととぎす)を思ふ歌」とある、田口朝臣馬長(たぐちのあそみうまをさ)の歌。田口朝臣馬長は伝未詳で、『万葉集』にはこの1首のみ。「今し来鳴かば」の「し」は強意の副助詞で、タイミングよく今来て鳴いてくれたならば、の意。「万代に語り継ぐべく」は、永久に語り継ぐであろうと。左注に作歌事情が記されており、楽しい宴席にいっそう興を添えたいと、ホトトギスが来て鳴くのを待ち望んでいたというものです。窪田空穂は、「主人、または主人方となって、客をもてなす心で詠んだもので、『万代に語りつぐべく』という思い切っての誇張が、一種の機知のごとく喜ばれたものとみえる。しかしこの程度の技巧が人の記憶にとどまり得たのは、その時ほととぎすが来たというような事実が伴わなかろうか」と述べています。
3915は、題詞に「山部宿祢明人(やまべのすくねあかひと)が春の鶯を詠める歌」とありますが、山部赤人の作だといわれています。同一の人名を別々の文字で書く例はほかにも見られ、当時は、訓みを主として、文字には拘らなかったための書き方のようです。「あしひきの」は「山」の枕詞。「山谷越えて」は、山や谷を越えてやって来て。「野づかさ」は、野にある小高い所。「今は鳴くらむ」の「今は」の「は」は、取り立てて提示し強調する係助詞。「らむ」は、現在推量の助動詞。「うぐひすの声」は、体言止めで詠嘆を込めているもの。
斎藤茂吉は、「一般的な想像のようにできている歌だが、不思議にも浮かんでくるものが鮮やかで、濁りのない清淡ともいうべき気持ちのする歌である」と評し、また、「巻17の歌をずうっと読んできて、はじめて目ぼしい歌に逢着したと思って作者を見ると赤人の作である。赤人の作中にあってはさほどでもない歌だが、その他の人の歌の中にあると斯くのごとく異彩を放つ」とも言っています。また、窪田空穂は、「赤人の歌の特色である、静かな境を捉え、想像であるにもかかわらず、実際に即した微細な言い方をし、清らかに明るい趣をもたせているものである」と述べています。
山部赤人は、奈良時代の初期から中期にかけて作歌がみとめられる宮廷歌人(生没年未詳)で、大伴旅人・山上憶良より少しおくれ、高橋虫麻呂とほぼ同時期の人です。もともと山守部(やまもりべ)という伴造(とものみやっこ)の子孫らしく、また伊予の豪族、久米氏の末裔とも言われています。古くから人麻呂と並び称せられ、とくに自然を詠じた叙景歌にすぐれているとされます。年代の明らかな作品は、神亀元年(724年)から天平8年(736年)までです。

『万葉集』に詠まれた鳥
1位 霍公鳥(ほととぎす) 153首
2位 雁(かり) 66首
3位 鶯(うぐいす) 51首
4位 鶴(つる:歌語としては「たづ」) 45首
5位 鴨(かも) 29首
6位 千鳥(ちどり) 22首
7位 鶏(にわとり)・庭つ鳥 16首
8位 鵜(う) 12首
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六歌仙
「六歌仙」とは、日本初の勅撰和歌集『古今和歌集』(延喜5年:905年)の序文「仮名序(かなじょ)」において掲げられている6人の代表的な歌人のことで、僧正遍照(そうじょうへんじょう)、在原業平(ありわらのなりひら)、文屋康秀(ふんやのやすひで)、喜撰法師(きせんほうし)、小野小町(おののこまち)、大友黒主(おおとものくろぬし)の6人を指します。
ただし、紀貫之の執筆によるこの「仮名序」には、もっと素晴らしい歌人として、柿本人麻呂と山部赤人が挙げられていて、六歌仙の人たちにはそれぞれ欠点があるとして指摘しています。たとえば、遍昭については「歌のさまはえたれどもまことすくなし」、業平については「その心あまりてことばたらず」、康秀については「ことば巧みにてそのさま身におはず」などと、かなり厳しいものです。
これに対して、「仮名序」では、柿本人麻呂を「歌聖(うたのひじり)」、同じく紀淑望(きのよしもち)が漢文で書いた「真名序(まなじょ)」では、山部赤人を「和歌仙(わかのひじり)」としており、この二人について紀貫之は、「人麿は、赤人が上(かみ)に立たむことかたく、赤人は人麿が下(しも)に立たむことかたくなむありける」と記述しています。つまり、二人の実力は同列であると判断しているのです。
なお、六歌仙に対して厳しく評価しているものの、それ以外の歌人については、わざわざ名を挙げて批評するに値しないとしているので、結局は六歌仙をそれなりに高く評価しているものです。
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