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巻第17(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第17-3988~3990

訓読

3988
ぬばたまの月に向(むか)ひて霍公鳥(ほととぎす)鳴く音(おと)遥(はる)けし里遠(さとどほ)みかも
3989
奈呉(なご)の海の沖つ白波しくしくに思ほえむかも立ち別れなば
3990
我(わ)が背子(せこ)は玉にもがもな手に巻きて見つつ行かむを置きて行かば惜(を)し

意味

〈3988〉
 夜空の月に向かって鳴くホトトギスの声が、遙か彼方から聞こえてくる。里から遠い山の中にいるからだろうか。
〈3989〉
 奈呉の海の沖から白波がしきりに寄せてくるように、しきりにみなさんのことが思われることでしょう。このままお別れした後は。
〈3990〉
 あなたが玉であってくれたらなあ。そしたら手に巻いて見ながら旅行くことができるのに。あとに残して行くのが何とも心残りです。

鑑賞

 大伴家持の歌。3988は、4月16日の夜中に、遠くでホトトギスが鳴くのを聞いて作った歌。4月16日は、太陽暦の5月29日にあたります。「ぬばたまの」は「夜」の枕詞ながら、ここでは夜の物である「月」に転じてかけています。「里遠みかも」の「かも」は疑問で、ホトトギスの鳴いている所が、自分の住む里から遠いからであろうか、の意。

 3989・3990は、国守である家持が、正税帳(しょうぜいちょう)を太政官に提出するため入京することとなり、4月20日、大目(だいさかん)
秦忌寸八千島(はだのいみきやちしま)の邸宅で開かれた送別の宴で作った歌。「大目」は、国司の四等官の上位。「正税帳」は、租税の出納簿のことで、毎年2月末までに太政官に報告する義務となっており、雪国の越中は4月末が期限とされていました。ただし、家持が出発したのは5月初旬であり、その遅延の理由は明らかではありません。

 
3989の「奈呉の海」は、高岡市伏木から射水市放生津潟にかけての海。八千島の館は、奈呉の海を見渡せる眺望のよい高台にあったのでした。上2句は「しくしくに」を導く譬喩式序詞。「しくしくに」は、しきりに。「思ほえむかも」の対象は、八千島を中心とする同席者。3990の「我が背子」は、八千島を親しんで呼んだもの。「もがもな」の「もがも」は、願望、「な」は、詠嘆。
 


四度使と事務負担

 諸国から帳簿を中央に提出する機会は大きく4つに分けられ、それぞれ、国司のメンバーのなかから使者を選んで都に派遣した。毎年の財務収支報告書である正税帳(しょうぜいちょう)を送る「正税帳使」、人々への賦課の基準となる計帳を送る「大帳使(だいちょうし)」、地方で徴収した調の物品と関係書類を送る「貢調使(こうちょうし)」、そして毎年の官人の勤務評価に関する書類を提出する「朝集使(ちょうしゅうし)」である。これらの使者をまとめて四度使(よどのつかい)と呼んでいる。
 
 四度使のそれぞれの使者が主目的として提出する書類のほかに、関連する統計資料の付属書類もたくさんあり、それらは枝文(えだぶみ)と呼ばれた。四度枝文(よどのえだぶみ)を含めて考えると、諸国では一年中ほとんど書類づくりに追われていなければならない。これに加えて、戸籍や、田籍(でんせき)・田図(でんず)といった田地の登録関係帳簿が6年に1回作成される。

 全国の官司には、長官(かみ)・次官(すけ)・判官(じょう)・主典(さかん)という四等級の官職が置かれるのが原則で、四等官(しとうかん)と呼ばれる。しかし、書類の作成にあたる実務労働は、四等官だけではとても足りない。四等官の下には史生(ししょう)という書記官がいるが、これでも実際には足りないだろう。諸国での人員は、もっとも多い国でも長官1名、次官1名、判官2名、主典2名、史生3名、合計9名である。これでは、種々の帳簿の責任者を分担する程度のことしかできない。しかも、年間に数名は四度使として上京中である。

 そこで、実際の書類作成労働の主力となる者が、かき集められることになる。こうして諸国の行政においては、書生(しょしょう)と呼ばれる者たちが実務に参加するようになっていった。書生は律令にはまったく規定されていない。必要に迫られて、諸国で設置されるようになった肩書きの者たちである。7世紀段階ではこうした存在は確認できていないので、大宝律令施行による書類扱い業務の膨大化に伴って生まれた存在ということができる。

 各地の書生たちは、地元出身の者であった。書生は文筆能力をもっていなければ役に立たないため、地方豪族などの有力者の家柄から採用されていたようである。地方行政の末端にいた彼らの活躍がなければ、書類もまとめられないし、それを使って人々に賦課をかけることもできなかった。彼らは、官僚機構を末端で支え、国家運営になくてはならない存在となっていったのである。

~『律令国家と万葉びと』から引用

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