| 訓読 |
4119
いにしへよ偲(しの)ひにければ霍公鳥(ほととぎす)鳴く声聞きて恋しきものを
4120
見まく欲(ほ)り思ひしなへにかづらかけかぐはし君を相(あひ)見つるかも
4121
朝参(てうさん)の君が姿を見ず久(ひさ)に鄙(ひな)にし住めば我(あ)れ恋ひにけり [一云 はしきよし妹(いも)が姿を]
| 意味 |
〈4119〉
遠い昔から人々が愛してきたものだから、ホトトギスの鳴き声を聞くと、懐かしくて仕方がない。
〈4120〉
お逢いしたいと思っていた、ちょうどその折りに、かづらをつけた懐かしいあなたにお逢いすることができました。
〈4121〉
朝廷に出仕しているあなたの姿をお見かけせず、長らく鄙の地に住んでいたので、恋しくてなりませんでした。
| 鑑賞 |
大伴家持の歌。4119は、前の久米広縄歓迎の宴が行われた翌日の28日に、ホトトギスが鳴くのを聞いて作った歌。宴の席上での歌かともいわれ、その折の長反歌(4116~4118)に対する別種の反歌とも言える内容になっています。「いにしへよ」の「よ」は「より」の意で、遠い昔より。「偲ふ」は、恋い慕う、賛美する。
4120・4121は、京に向かう時に貴人にお目にかかり、また、美人に逢って飲宴する日に備えて、思いを述べ、あらかじめ作った歌。4120の「見まく」は「見む」のク語法で、見ること、見るだろうこと。「なへに」は、ちょうどその時。「かづら」は、縵の冠、髪飾り。「かぐはし」は、懐かしい。「君」は、貴人である男。4121の「朝参」は、朝廷に官人として出仕すること。その日の政務の開始に先立ち、天皇の御前に列立して行う礼。「鄙」は、都から遠い地方。ここでは越中。一云の「はしきよし」は、ああ愛しい。一云にある「妹」は、前記の「美人」を指します。
家持がどのような任務で上京しようとしていたのかについては、久米広縄の帰任に触発され、今年の大帳使として自ら上京しようと計画していたのかもしれないと推察されています。
なお、この年(749年)4月14日、聖武天皇は東大寺に行幸し、大仏拝礼の儀を終えて、左大臣従一位橘諸兄に正一位を授け、大納言従二位藤原豊成を右大臣に列しました。橘諸兄がついに人臣最高位に昇ったわけですが、それよりも藤原豊成が右大臣に任ぜられたこと、即ち天然痘によって藤原4兄弟が倒れた後、若い藤原氏がついに大臣に到達した意義は大きいものでした。政治の実権のバランスは、確実に諸兄から再び藤原一族に傾きつつあったと言えます。
そして、7月2日に、聖武天皇は皇太子阿倍内親王に譲位し、孝謙天皇が即位しました。かねて病気がちだった聖武天皇は、大仏開眼の見通しがついたところで譲位の決意をしたのでしょう。これに合せ、参議藤原仲麻呂が中納言を経ずして大納言に任ぜられました。仲麻呂は孝謙女帝の寵臣だったのです。8月になり、仲麻呂は新たに設置された紫微中台(しびちゅうだい)という役所の長官(紫微令)を兼任することとなりました。紫微中台は、光明皇后に付属する皇后宮職(こうごうぐうしき)を組織変えしたもので、孝謙天皇・光明皇太后・仲麻呂が三つ巴に組んだ強力な政治機構を作り上げたことになります。

越中時代の大伴家持
天平18年(746年)
7月 国守として越中に赴任
8月 国守の館で歓迎の宴
9月 弟・書持の訃報に接し哀傷歌を作る
12月 この頃から病に臥す
天平19年(747年)
2月 越中掾の大伴池主と歌の贈答
3月 月半ばまでに回復か
3月 妻への恋情歌を作る
4月 3~4月にかけて「越中三賦」を作る
5月 このころ税帳使として入京
5月以降、池主が越前国の掾に転任
8月 このころ越中に戻る
8月 このころ飼っていた自慢の鷹が逃げる
天平20年(748年)
2月 翌月にかけて出挙のため越中国内を巡行
3月 橘諸兄の使者として田辺福麻呂が来訪
4月? 入京する僧・清見を送別する宴
10月 このころ掾の久米広縄が朝集使として入京
天平勝宝1年(749年)
3月 越前の池主と書簡を贈答
4月 従五位上に昇叙される
5月 東大寺占墾地使の僧・平栄が来訪
5月 「陸奥国より黄金出せる詔書を賀す歌」を作る
6月 干ばつが続き、雨を祈る歌と、雨が降って喜ぶ歌を作る
7月 このころ大帳使として入京
冬に越中に戻るが、この時、妻の大嬢を越中に伴ったとみられる
11月 越前の池主と書簡を贈答
天平勝宝2年(750年)
1月 国庁で諸郡司らを饗応する宴
3月 「春苑桃李の歌」を作る
3月 出挙のため古江村に出張
3月 妻の大嬢が母の坂上郎女に贈る歌を代作
4月 布勢の湖を遊覧
6月 京の坂上郎女が越中の大嬢に歌を贈る
10月 河辺東人が来訪
12月「雪日作歌」を作る
天平勝宝3年(751年)
2月 正税帳使として入京する掾の久米広縄を送別する宴
7月 少納言に任じられる
8月 帰京のため越中を離れる。途中、越前の池主宅に寄り、京から帰還途上の広縄に会う
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