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巻第19(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第19-4213・4217~4219

訓読

4213
東風(あゆ)をいたみ奈呉(なご)の浦廻(うらみ)に寄する波いや千重(ちへ)しきに恋ひわたるかも
4217
卯(う)の花を腐(くた)す長雨(ながめ)の始水(はなみづ)に寄る木屑(こつみ)なす寄らむ子もがも
4218
鮪(しび)突(つ)くと海人(あま)の灯(とも)せる漁(いざ)り火の穂にか出(い)ださむ我(あ)が下思(したも)ひを
4219
我(わ)が宿の萩(はぎ)咲きにけり秋風の吹かむを待たばいと遠みかも

意味

〈4213〉
 東風(あゆ)が激しく吹くので、奈呉の浦の湾曲した海岸に寄せる波が、いよいよ幾重にもしきりに重なって打ち寄せるように、私は(あの人のことを)いよいよ激しくずーっと恋い慕い続けていることよ。
〈4217〉
 卯の花をだめにする長雨で増水した川、その流れの先に木屑を寄せるように、私に寄り添ってくれる子がいたらなあ。
〈4218〉
 鮪を突いて捕ろうと、海人が灯す漁り火のように、はっきりと表に出してしまおうか、胸に秘めたこの思いを。
〈4219〉
 我が家の庭の萩が咲き出した。秋風が吹くのを待っていては、あまりに先で待ちきれないからだろうか。

鑑賞

 大伴家持の歌。4213は、題詞はなく、左注に「京の丹比家に贈る」とあります。「東風(あゆ)」は、東風の当地での方言。「いたみ」は「いたし」のミ語法。(東風が)激しいので。家持が越中で「東風」を詠みこんだ他の作(巻第17-4006、4017、巻第18-4093)も、すべてその風を「いたし」と表現しています。「奈呉」は、射水市放生津潟の海浜。上3句は「いや千重しきに」を導く譬喩式序詞。「いや千重しきに」は、いよいよ幾重にも重ねて。「恋ひわたるかも」の「恋ひわたる」は、動詞「恋ふ」に、時間の継続を表す補助動詞「わたる」がついたもの。「ずっと恋い慕い続ける」という意味。「かも」は、詠嘆の終助詞。

 
4217は「霖雨(りんう)の晴れぬる日に作る」歌。「霖雨」は、幾日も降り続く雨、長雨。「腐す」は、ここでは痛める、だめにする。「始水」は、水量の増した流れの先端。上4句は「寄る」の同音で「寄らむ」を導く序詞。「子もがも」の「子」は女の愛称。「もがも」は、願望。雨上がりの景を素材とし、雨隠りの鬱状を発散させようとする心の歌です。

 
4218は「漁夫(あま)の火光(いざりひ)を見る」歌。「鮪突くと」の「鮪」は、まぐろ、さばの類。「突く」は、銛(もり)で突いて獲る。上3句は「穂に出だす」を導く譬喩式序詞。「穂にか出ださむ」の「か」は疑問の係助詞で、穂先のように、はっきりと表に出してしまおうか、の意。「下思ひ」は、心中に秘めた思い。以上2首は、天平勝宝2年(750年)5月の作。日付不明。

 
4219は、6月15日に「萩の早花(はつはな)を見て作る」歌。「早花」は、季節に先がけて咲いた花。陰暦では7月~9月が秋で、萩は7月の秋風とともに咲くとされていましたから、秋にはまだ遠い日付となります。「宿」は、家の敷地、庭先。「いと遠みかも」の「遠み」は「遠し」のミ語法で、あまりに先で待ちきれないからだろうか、の意。ここ越中では、都の季節感に先がけて萩が咲くことを、このように歌っています。

万葉集ゆかりの地(富山県・新潟県)

  • 英遠の浦
    「英遠の浦に寄する白波いや増しに立ち重き寄せ来東風をいたみかも」(巻第18-4093)
    富山県氷見市阿尾の海岸。
  • 射水川
    「朝床に聞けば遥けし射水川朝漕ぎしつつ唄ふ舟人」(巻第19-4150)
    岐阜県境に発し、砺波を流れ、高岡市伏木で富山湾に注ぐ小矢部川のこと。
  • 弥彦
    「弥彦おのれ神さび青雲のたなびく日すら小雨そほ降る」(巻第16-3883)
    新潟県西蒲原郡弥彦村の弥彦山(638m)。山下に弥彦神社があります。
  • 越中国府址
    「しなざかる越に五年住み住みて立ち別れまく惜しき宵かも」(巻第19-4250)
    大伴家持が国守として赴任した当時の越中国庁は、現在の富山県高岡市伏木古国府にある勝興寺(しょうこうじ)のある地にあったとされます。
  • 渋谿
    「馬並めていざ打ち行かな渋谿の清き礒廻に寄する波見に」(巻第17-3954)
    富山県高岡市渋谷。布勢から国府への途中、二上山の東北麓にあたります。
  • 垂姫の崎
    「神さぶる垂姫の崎漕ぎ廻り見れども飽かずいかに我れせむ」(巻第18-4046)
    富山県氷見市大浦、堀田付近で、二上山の北麓、布勢の水海の南岸。半島をなして水海に突出していたろうといわれます。
  • 奈呉の浦
    「東風をいたみ奈呉の浦廻に寄する波いや千重しきに恋ひわたるかも」(巻第19-4213)
    富山県射水市放生津潟の海浜。
  • 布勢水海
    「布勢の海の沖つ白波あり通ひいや年のはに見つつ偲はむ」(巻第17-3992)
    富山県氷見市の南方、二上山の西北にあった広大な湖。中世以降の干拓によってほとんど陸地となり、細長い十二町潟(じゅうにちょうがた)と呼ばれた水路が名残としてありましたが、それも近年の治水工事で姿を消しました。
  • 二上山
    「玉櫛笥二上山に鳴く鳥の声の恋しき時は来にけり」(巻第17-3987)
    富山県高岡市の北方にある山(259m)。

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