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巻第19(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第19-4230~4234

訓読

4230
降る雪を腰になづみて参り来(こ)し験(しるし)もあるか年の初めに
4231
なでしこは秋咲くものを君が家の雪の巌(いわお)に咲けりけるかも
4232
雪の嶋(しま)巌(いわお)に植ゑたるなでしこは千代(ちよ)に咲かぬか君が挿頭(かざし)に
4233
うち羽振(はぶ)き鶏(かけ)は鳴くともかくばかり降り敷く雪に君いまさめやも
4234
鳴く鶏(かけ)はいやしき鳴けど降る雪の千重(ちえ)に積めこそ我(わ)が立ちかてね

意味

〈4230〉
 降る雪の中を腰まで浸かって難渋しながら参上した、その甲斐があるというものです、このめでたい年の初めに。
〈4231〉
 なでしこは秋に咲く花といいますが、あなたの家の雪の岩に今も咲いていますね。
〈4232〉
 雪の積もった美しい庭に植えたなでしこは、いついつまでも咲いてほしい。あなた様のの髪飾りとなるように。
〈4233〉
 羽ばたいて鶏が鳴き、夜明けが近いと告げていますが、こんなにも降り積もった雪の中を、あなたはどうして帰られましょうか。
〈4234〉
 鶏はしきりに鳴いて夜明けを告げていますが、降る雪が幾重にも積もってきたので、私たちは席を立ちかねているのです。

鑑賞

 天平勝宝3年(751年)正月3日に、介(すけ=次官)の内蔵忌寸縄麻呂(くらのいみきなわまろ)の邸宅で宴を催した時の歌5首。前歌の正月2日の守の館での賀宴に続き、介の館と主を変えてのもので、前日の宴が公的儀礼的な色合いが濃かったのに対し、宴楽の趣きが濃いもののようです。律令では、正月に国司が郡司らを招いて、まず都の天皇その地から拝み、次いで宴をするものと規定されていました。その目的は二つあり、一つは全国一律にそうした儀礼をおこなうことによって地方の人々の心を中央に向かわせるため、二つ目は中央から派遣された国司と地方に根づく豪族たちの代表である郡司たちとの良好な人間関係を築くためでした。宴にかかる費用は官物・正税を充ててよいとされていました。また、当時の宴は、夜を徹して行うものとされました。宴は神祭りに起源を発し、神の時間は夜とされたからです。ここの宴のようすも、そのようであったようです。

 
4230は、大伴家持による主賓としての挨拶歌。「降る雪を」の「を」は、動作の対象や原因・状況を示す格助詞。ここでは「激しく降る雪のなかを」という状況を表します。「腰になづみて」の「なづむ」は、行き悩む、難渋する意。雪が腰の高さまで積もっている様子を言っています。「参り来し」は、参上した。「験もあるか」は、甲斐もあるというものだ。「も~か」は、詠嘆の表現。

 
4231は、掾(じょう)久米広縄の歌。題詞には、「時に、雪を積みて重巌(ちょうがん)の起(た)てるを彫り成し、奇巧(たくみ)に草樹の花を綵(し)め発(ひら)く」とあり、庭の雪を積みあげて岩が重なり立つさまに造り、色とりどりの草樹の花で彩ったのです。主人縄麻呂による趣向と見え、この歌はそれを題材に歌ったものです。「秋咲くものを」の「ものを」は、逆接。「雪の巌に」は、題詞の雪を高く積みあげて造った山のことで、それと知りながらも冬の庭の実景として言っています。「咲けりけるかも」の「けるかも」は、気づきの強い詠嘆。

 
4232は、遊行女婦、蒲生娘子(かもうのおとめ:伝未詳)が和した歌。「山斎」は、池や築山などのある庭。「千代に咲かぬか」は、永久に咲いてほしい。「挿頭に」は、挿頭として。「かざす」は、草木の花や枝を髪や冠にさすことを言い、元来は植物の生命力を身に付着し、繁栄を願う呪術的行為であり、ここはその原義を帯びた名詞として用いています。窪田空穂は、「特殊な材を即座に、その場合にふさわしいものにしているところ、歌才を思わせる」と評しています。

 
4233は、主人の内蔵忌寸縄麻呂の歌。題詞に「ここに諸人(もろびと)、酒(さけ)酣(たけなは)にして、夜(よ)更(ふ)け鶏(にはとり)鳴く。これに因りて主人(あるじ)内蔵忌寸繩麻呂の作れる」とあります。原文の「更深」「鶏鳴」は『遊仙窟』などの漢籍に多く見られる語で、男が女の家を辞すべき時を知らせて鳴く鶏を憎む言い方をにおわせているかと言います。「うち羽振き」の「うち」は接頭語、ばたばたと羽ばたきをして。「君」は、主賓の家持を指します。「いまさめやも」の「います」は、帰り行く意の尊敬語。「やも」は、反語。

 
4234は、家持が和した歌。「いやしき鳴けど」は、いよいよしきりに鳴くけれども。「積めこそ」は「積めばこそ」の約。「我が」の原文「吾等」とあり、複数の我らの意と解されます。「立ちかてね」は、上の「こそ」の係り結び。「かて」は可能の意の「かつ」の未然形、「ね」は打消の助動詞「ぬ」の已然形。窪田空穂は、「主人の引き留めるのに、躊躇なく応じた心である。題詞に、『酒酣に』とあり、下僚一同の酒興の盛んなのを見て、守として少なくともそれを妨げまいとしていっているものと取れる」と述べています。

国司について

 国司は、律令制において中央から派遣され、諸国の政務を司った地方官のこと。その役所を国衙(こくが)といい、守(かみ)・介(すけ)・掾(じょう)・目(さかん)の四等官のほか、その下に史生(ししょう)などの職員があった。任期は令で6年(のち4年)とされていたが、実際の平均は2年ほど。なお、守(長官)を国司と呼ぶこともある。

  • 守(かみ)
    四等官のうちの第一等官。任国の行政・司法・警察などの国務を総括する。平安時代中期には「受領」とも呼ばれる。
  • 介(すけ)
    四等官のうちの第二等官。守を補佐し、不在の際には代理を務める次官。
  • 掾(じょう)
    四等官のうちの第三等官。書記業務などを担当する。平安時代中期は現地の人を任用した。
  • 目(さかん)
    四等官のうちの第四等官。国内の取り締まりや文書の起草などを担当する。平安時代中期は現地の人を任用した。

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収録歌数の多い歌人

  1. 大伴家持 477
  2. 柿本人麻呂 84(重出 7)
  3. 大伴坂上郎女 83
  4. 大伴旅人 78
  5. 山上憶良 75
  6. 山部赤人 49
  7. 笠金村 45
  8. 田辺福麻呂 44
  9. 中臣宅守 40
  10. 高橋虫麻呂 35
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