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耳の「錯覚」にご注意!

 多くのオーディオ・マニア諸兄は、日々、自身のオーディオの音質改善に尽力なさっていることと思います。私も未だに万年初心者の域を出られないものの、自分なりにいろいろ試行錯誤しております。そうしたなか、けっこう陥りやすい罠といいますか、失敗しないように注意しなければならないと感じることがあります。

 それは、自分の耳の「錯覚」に騙されてはならない、ということです。私たちにありがちなのが、機器のセッティングの変更や、新たなオーディオ・アクセサリーの導入など、何か新しい試みを行ったときの音の変化を、直ちに「良くなった!」と錯覚してしまうことです。何か新しいことをやるのは、ひとえに音質改善を信じてですから、変化があればすぐに肯定してしまう。悪くても「変化なし」。まして「悪化する」などとは端から想定していない。

 こういうの、自分の耳にむちゃくちゃ自信のある人ほど陥りやすい現象だといいます。音の変化に対して極度に敏感、あるいは敏感だと思い込んでいますからね。すなわち変化を感じ取る「自分」を肯定してしまうわけです。それから同じ趣味の友人がいない人もヤバイって。私の場合は後者。周りに同じ趣味の人も理解者もいませんから、全くの「唯我独尊」状態です。これは極めて危険な状態と言わざるを得ません。
 
 ところで、ネット上で『オーディオの科学』という興味深いサイトを見つけました。材料工学や磁性物理学が専門の元大学の先生という方が開設していて、オーディオに関するさまざまな疑問点を多面的に分析なさっています。さすが「科学」というだけあって、私ごときのような、ほとんど感覚だけで勝負?している者にとって、目からウロコが落ちるような話や、なかなか理解しにくい難解な話がたくさん載っています。

 そのなかに、耳の「錯覚」と関連があるかどうか、「音は脳で聴く」と題した記事があり、私たちが音を認識するプロセスが紹介されています。それによると、耳に入った音はまず鼓膜を振動させ、その振動が内耳の蝸牛に伝わり、ここで電気信号に変換される。それが神経索を伝わり、最後に側頭葉にある聴覚皮質で音として認識される。ただこの時、音の信号は、色々なパスや中継点に分岐して伝わり、視覚情報や過去の音の記録、言語野、知識野などにあるさまざまな情報と相互作用しながら聴覚皮質で統合され、音のイメージなどが形成される。その間に要する時間は、わずか約0.1秒。

 つまり私たちは、耳に入ってきた物理的な音をそのまま純粋に聴いているわけではなく、脳によっていろいろな材料が加えられて料理された後に、最終的な音として認識しているというのです。そればかりでなく、その音を聴く私たち自身も、日々刻々と変化している。本当は、今日の私は、昨日の私ではない。しかしその変化を実感できないのは、私たち自身の連続性・共通性を優先的に重視しようとする脳の働きによるといいます。でないと、社会生活がうまく営めなくなってしまうのだそうです。

 そうした脳の働きがオーディオにどう関係してくるかというと、たとえばケーブルの交換やエージングによって音が変化したと感じるのは、むしろ私たちの脳の状態のほうが変化しているからであり、また同じ音楽を聴いても、日によって印象や感じ方が違って聴こえるのも、自分のほうが変化している、つまり脳内処理が変化しているからだというのです。オーディオをあれこれいじくり回しているファンにとって、何だか身も蓋もない話のようであります。

 でも確かに、私たちは生身の人間ですからね。決して音楽を聴く「機械」や「測定器」などではない。生身の私たちの脳が、わずか0.1秒の間に、ああでもないこうでもないと処理して音を聴かせてくれているという話は十分理解できます。そこには思い込みなどの認識が作用しているかもしれない、日々移ろう喜びや悲しみなどの感情の変化も間違いなく影響している、常に昨日と違う自分がある。これがそうではなく、いつ、どんな状態で聴いても全く同じ音にしか聴こえないのでは、かえってつまらないかもしれません。

 しかし、どういうもんでしょう。脳の処理による影響があるにしても、あくまで時と場合に応じてであり、常にそれに左右されているとは思わないですけどね。いつどんな時もそうだったら、私たちは永遠に真の聴覚情報を得られないことになり、大げさに言えば、安全に生きていくうえで支障をきたしかねない。それに、自分自身で「今日は感覚が鈍ってるな」とか「お、今日はけっこう敏感に聴こえるな」とか判断できますからね。そのへんを踏まえたうえであれこれ聴き分けようと努力しているのです。ただボーッと聴いているわけじゃない。

 実は元先生も、最後のところで「私などではとても分からない(あるいは気にしない)僅かな音質の差を聴き分けるマニアが存在することは事実であり、私も否定しない」とおっしゃっています。ですからね、たとい脳の影響があるにしても、違いとか変化は、分かる人には分かるし、分かる時には分かるんです。しかもそういう人は決して稀有な存在ではない。私ごとき浅薄な経験しかない人間ですら、ノイズの影響や、ケーブルの交換で間違いなく音が変化するのを感じるし、エージング効果も、機器によってですが確実にあると信じています。僭越ながら、日々重ねてきた訓練の賜物だと思っています。

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管理人のオーディオへの拘り(箇条書き)

  • 部屋の大きさとスピーカーの大きさのバランスは、とても大切。
  • とにかく、流れる電流をきれいに。
  • できるだけ高品位なケーブルを。
  • 機器類がストレスなく稼働できる設置環境を。
  • PCオーディオに、大きすぎるスピーカーは避ける。
  • できるだけ多くの生演奏を聴く。
  • 部屋の音響対策は、きわめて重要。とくに「吸音」を軽んじることなかれ。
  • 部屋の雰囲気づくりも怠りなく。
  • 部屋の空気の状態にも気を使う。
  • いろいろな刺激に接し、自身の感性を磨く努力を。
  • ヘッドホンの使用は、あくまで緊急避難的。
 

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バスレフ型と密閉型

バスレフ型のスピーカーは、エンクロージャーの前面か後面に開口部を設けたダクトを備える方式。エンクロージャー内部の音を、ダクトを通じて外に出すことで、主に低音域を増強することができる。サイズの小さなスピーカーは低音の再生能力には限界があるので、バスレフ型とすることで、低音感の不足を補うことができる。

密閉型は、バスレフ型のような開口部がなく、エンクロージャーを完全に密閉した方式。バスレフに比べて最低域はキレがあり伸びるものの、量感は乏しい。したがって、ある程度の低音を響かせるためには、エンクロージャーの容積に余裕のある設計が必要になる。

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