| 訓読 |
須磨(すま)の海女(あま)の塩焼き衣(きぬ)の藤衣(ふぢごろも)間遠(まどほ)くしあればいまだ着なれず
| 意味 |
須磨の海女が塩を焼くときに着る藤の衣の、その布目が粗いように、たまにしか逢わないので、いまだにしっくりと身に馴染まない。
| 鑑賞 |
題詞に「大網公人主(おほあみのきみひとぬし)が宴吟(えんぎん)の歌」とあります。大網公人主は、伝未詳。『万葉集』にはこの1首のみ。「宴吟」は、宴席で節をつけて歌うことで、古歌か自作なのかは分かりません。「須磨」は、神戸市須磨区一帯。この地の塩焼きは、志賀の海女(巻第3-278)とともに有名でした。「藤衣」は、藤の皮の繊維で織った海女の作業着、または庶民の衣服。上3句はその衣の布目が粗いことから、女と逢う機会が粗い意の「間遠く」を導く譬喩式序詞。「間遠くし」の「し」は、強意の副助詞。「いまだ着なれず」は、衣がまだ硬くて体に馴染まない意と、女とまだしっくりと打ち解けない意を掛けています。
あるいはこの歌は、新妻を「藤衣」に譬え、逢う機会が少ないと言いながら、実は新婚気分を歌った「のろけ歌」ではないかとの見方もあります。いずれにせよ、婚姻・間遠・不馴の3つの主意を着物に寓し、技巧を凝らした歌になっています。

古典文法
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