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巻第5(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第5-883

訓読

音(おと)に聞き目にはいまだ見ず佐用姫(さよひめ)が領布(ひれ)振りきとふ君(きみ)松浦山(まつらやま)

意味

噂には聞いて目にはまだ見たことがない、佐用姫が領布を振ったという、君待つと言う名の松浦山は。

鑑賞

 三島王(みしまのおほきみ)が、後に大伴旅人の松浦佐用姫の歌に追和した歌。三島王は、天武天皇の孫で、舎人皇子(とねりのみこ)の子。養老7年に無位から従四位下を授けられています。この歌は、帰京した旅人から披露された歌(871~875)に和したもののようです。「音に聞き」は、評判に聞いて。「目にはいまだ見ず」は、実際にはまだ自分の目で見たことがない。「領巾」は、女性が肩にかけた細長い装飾用の布。呪力があり、振ると願いが叶うと考えられていたといいます。「振りきとふ」の「振りき」は、振ったという過去の事実。「とふ」は、「といふ」の約。「君松浦山」は、君を待つ意を同音の「松」に続けた序詞の形になっています。「松浦山」は、松浦の領巾振山(鏡山とも)。

 
松浦佐用姫は、朝鮮半島へ向かう夫(大伴狭手彦:おおとものさでひこ)との別れを惜しみ、山の上から領布を振り、ついには悲しみのあまり石になってしまった(望夫石)という伝説のヒロインです。この伝説は、その山の景勝と共に都人も耳にするところであったと見えます。なお、巻第5は、この歌で前半・後半の二部に分けることができます。すなわち前半は大伴旅人を中心とした筑紫の人々の賑わい、後半は旅人不在となった筑紫の寂寥の中に、山上憶良の独り舞台となります。
 


『万葉集』を学ぶ意義

  1. 日本語・日本文化の源流を知る
    『万葉集』は、8世紀に編まれた日本最古の和歌集であり、日本語の成り立ちを知る上で極めて重要な資料です。当時の言葉づかいや表現から、「日本語の原型」や「感性の根源」を読み取ることができます。
  2. 古代人の心や生活への理解
    『万葉集』は宮廷歌集という位置づけであるものの、天皇、皇族、貴族のみならず、東歌・防人歌などの衆庶の歌も収められています。恋、自然、別れ、旅など、人々の思いが率直に表現されており、1300年以上前の人間の感情が、現代にも通じる普遍性をもって響きます。
  3. 文学としての美しさと表現力
    自然の描写や感情表現の豊かさは、後の『古今和歌集』や『源氏物語』などの古典文学に大きな影響を与えました。「ことばで情景を描く力」「短い詩で心を伝える美意識」など、日本文学の本質に触れられます。
  4. 現代社会とのつながり
    『万葉集』の価値観は、「自然との共生」「素直な感情の表現」「多様性の尊重」など、現代にも通じるテーマを含んでいます。また、令和という元号も『万葉集』の一節から取られたことで、再び注目を集めています。
  5. まとめ
    『万葉集』を学ぶことは、日本語の原点を知り、人間の普遍的な心を感じることです。それは単なる古典の学習ではなく、現代の私たちの生き方や感性を深める学びでもあります。

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古典に親しむ

万葉集・竹取物語・枕草子などの原文と現代語訳。