| 訓読 |
音(おと)に聞き目にはいまだ見ず佐用姫(さよひめ)が領布(ひれ)振りきとふ君(きみ)松浦山(まつらやま)
| 意味 |
噂には聞いて目にはまだ見たことがない、佐用姫が領布を振ったという、君待つと言う名の松浦山は。
| 鑑賞 |
三島王(みしまのおほきみ)が、後に大伴旅人の松浦佐用姫の歌に追和した歌。三島王は、天武天皇の孫で、舎人皇子(とねりのみこ)の子。養老7年に無位から従四位下を授けられています。この歌は、帰京した旅人から披露された歌(871~875)に和したもののようです。「音に聞き」は、評判に聞いて。「目にはいまだ見ず」は、実際にはまだ自分の目で見たことがない。「領巾」は、女性が肩にかけた細長い装飾用の布。呪力があり、振ると願いが叶うと考えられていたといいます。「振りきとふ」の「振りき」は、振ったという過去の事実。「とふ」は、「といふ」の約。「君松浦山」は、君を待つ意を同音の「松」に続けた序詞の形になっています。「松浦山」は、松浦の領巾振山(鏡山とも)。
松浦佐用姫は、朝鮮半島へ向かう夫(大伴狭手彦:おおとものさでひこ)との別れを惜しみ、山の上から領布を振り、ついには悲しみのあまり石になってしまった(望夫石)という伝説のヒロインです。この伝説は、その山の景勝と共に都人も耳にするところであったと見えます。なお、巻第5は、この歌で前半・後半の二部に分けることができます。すなわち前半は大伴旅人を中心とした筑紫の人々の賑わい、後半は旅人不在となった筑紫の寂寥の中に、山上憶良の独り舞台となります。

『万葉集』を学ぶ意義
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