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巻第19(索引)万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第19-4154・4155

訓読

4154
あしひきの 山坂越えて 行きかはる 年の緒(を)長く しなざかる 越(こし)にし住めば 大君の 敷きます国は 都をも ここも同(おや)じと 心には 思ふものから 語り放(さ)け 見放くる人目(ひとめ) 乏(とも)しみと 思ひし繁(しげ)し そこゆゑに 心なぐやと 秋づけば 萩(はぎ)咲きにほふ 石瀬野(いはせの)に 馬だき行きて をちこちに 鳥踏み立て 白塗(しらぬ)りの 小鈴(こすず)もゆらに あはせ遣(や)り 振り放(さ)け見つつ いきどほる 心のうちを 思ひ延べ 嬉(うれ)しびながら 枕付(まくらづ)く  妻屋(つまや)のうちに 鳥座(とぐら)結(ゆ)ひ 据(す)ゑてぞ我が飼ふ 真白斑(ましらふ)の鷹(たか)
4155
矢形尾(やかたを)の真白(ましろ)の鷹を宿(やど)に据(す)ゑ掻(か)き撫(な)で見つつ飼はくしよしも

意味

〈4154〉
 山や坂をはるばる越えてやって来て、改まる年月長く、都を遠く離れたここ越の国に住んでいると、大君のお治めになる国であれば、都もここも同じだと心では思っているものの、語り合って気を晴らし、逢って心を慰める人が少ないこととて、物思いは募るばかりだ。それゆえ、心がなごむこともあろうかと、秋になれば萩の花が美しく咲く石瀬野に馬を駆って出かけ、あちこちで鳥を追い立て、白銀の小鈴を響かせて鷹を放ちやり、空遠く行方を仰ぎ見ながら、やるかたのない胸の内を晴らし、心嬉しく思いながら、妻屋の中に止まり木を作って、そこにいさせて私は大事に飼っている、この真白斑の鷹を。
〈4155〉
 矢形尾の真っ白な鷹を妻屋に置いて、撫でたり眺めたりしながら飼うのは実にいいものだ。

鑑賞

 天平勝宝2年3月8日、大伴家持の「白き大鷹を詠む歌」。「大鷹」は雌鷹の称で、雌の方が大きく、鷹狩に適しているといいます。ここの鷹は、巻第17-4011で逃がしてしまった鷹とは別と見られます。4154の「行きかはる」は、年月が次々に改まる意。「年の緒」は、年。「緒」は、年は長く続くものであるところから、語感を強めるために添えたもの。「しなざかる」は「越」の枕詞。「しな」は階段で坂の意。「さかる」は遠ざかる。「天離る」「鄙離る」などによって用いた家持の造語とされます。「大君の敷きます国は」の「敷く」は領有する意、「ます」は敬意の助詞。「同(おや)じ」は「おなじ」の古形。「思ふものから」は、思いながらも。「語り放け見放くる人目」の「語り放け」の「放け」は「離し」で、語って思いをやる意。「見放くる」も、逢って思いをやる意。「人目」は、人に逢うこと。「乏しみと」は、少ないゆえに。「そこゆゑ」は、そのために。「心なぐやと」の「なぐ」は、穏やかに静まる意。「石瀬野」は、高岡市庄川の石瀬一帯の地とされます。「馬だき行きて」の「たく」は、ここは馬の手綱を操る意。「鳥踏み立て」は、草むらに踏み入り鳥を追い立てる意。「白塗り小鈴」は、銀メッキした小鈴。「ゆらに」は、鈴の音の擬声語。「あはせ遣り」は、鳥をめがけて飛び立たせる意。「枕付く」は「妻屋」の枕詞。「妻屋」は、妻と寝る部屋。ここは鷹を飼う場所で、大切にする意から。「鳥座」は、鳥をとまらせる台。「真白斑の鷹」は、題詞に「白き大鷹」とあるように、白く見えるが、純白の斑の多い鷹か。

 
4155の「矢形尾」は、尾が矢の羽根のような形をしていること、あるいは尾に矢羽のような八の字の斑のあることか。「やど」は、ここは長歌にある「妻屋」のこと。「掻き撫で」の「掻き」は、接頭語。「飼はくしよしも」の「飼はく」は「飼ふ」のク語法で名詞形。「し」は強意、「も」は詠嘆。
 

家持という人

窪田空穂の評論から――

 家持という人は、その歌を通して見ると、性来としてきわめて正直な人で、また他人に対する情愛のきわめて深い人であった。しかし気分の振幅は狭く、何にでも流通のできるという、いわゆる融通の利く人ではなかった。しかし知性は相応に働く人で、事のほどよさ、振合いということは十分に解る人であった。世に処して誤りなく渡ってゆくことはできる人であるが、どちらかというと消極的であって、身を護るという程度のもので、事を計画し、身を進めてゆくというごとき積極的のことはできず、また厭って、しもしなかった人とみえる。したがって日常生活の上に起こり来る哀楽にしても、その激しいものを厭い、静かな気分を愛してゆく人であった。こうした世に執着するところの強くなく、求むるところの多くない人には、その充たされざるところより来る焦躁も暗さもなく、いつも明るく、ほどよい憧れ気分を抱いて、その日常生活を楽しんで行かれたのである。こうした風は、家持ひとりのことではなく、大体とすると天平末期のこの時代はそうした時代で、上層階級の多数の人に共通の気分だったのである。彼のこの気分は、彼の属している奈良京の上層階級の雰囲気であって、彼の気分はそれによって支持され擁護されるものだったのである。

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古典に親しむ

万葉集・竹取物語・枕草子などの原文と現代語訳。