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ヤマハのスピーカーNS1000M

 オーディオ・ファンの方々は、どなたも、ご自分の機器に対する思い入れは大変強く持っていらっしゃると思います。同じメディアに関する電気製品でも、テレビとかパソコンなどに対しては決してそんなふうにはならないのに、ことオーディオ機器に対しては、不思議なほどに格別な拘りや愛情を抱くものです。SNSなどでオーディオ関係のコミュニティを拝見するとそれらが大いに感じられます。

 なぜそのようになるかを考えると、かの長岡鉄男さんが言っていた言葉を思い出します。「オーディオとは、一人ひとりが、己れのセンスを追及していくことであり、一万人のオーディオマニアがいれば、一万組のちがったコンポーネントができて当然なのである」。つまりは、自分が所有するコンポーネントは、決して他の人のものとは同じではない、まさに自分一人のアイデンティティ、美意識、価値観などの具現であるからなのでしょうね。

 不肖私も、自身の機器にはそれなりの思い入れがあり、中でも長らく愛用し続けてきたのが、ヤマハのNS-1000M(通称センモニ)というスピーカーです。1974年に発売され、以後23年間の長期にわたって販売されたベストセラー機なので、ご存じの方は多いと思います。学生時代にアルバイトで必死にお金をためて購入(当時の値段は1本\108,000)、それからずっと、私の長らくのオーディオ生活を彩ってくれたヤツです。社会人になってからは転勤族だったもんで、幾度かの引越しのせいで外観はかなり傷んでいましたが、音だけはずっと元気に鳴り続けてくれました。

 おそらく一生使い続けるだろうなと思っていたのですが、予期せぬことに、最近になって後継機ともいえるNS-5000が発売されたものですから、「これを聴かずには、死ぬに死ねない!」というので、やむなくセンモニは里子に出して、新たにNS-5000に置き換えた次第です。しかし、今でもセンモニに対する思い出、ノスタルジアが失われることはありません。中古市場でなお人気を博しているのを見かけると、たいへん嬉しく誇らしく思います。それほどに愛すべきスピーカーだったと思います。

 もっとも、私は、ずっとセンモニ以外を殆ど知らずにきましたから、同時代の他のスピーカーと比較してどうこう論評することはできません。巷の評判では、ベリリウム振動板による中高域の再生音の美しさや、30cmウーハーの低域の弱さなどが指摘されていて、あーそういうもんかと納得していたくらいです。ただ一つ私が確かに言えるのは、繊細ながらも、とても素直で包容力のあるスピーカーだったということです。

 どういうことかと言うと、アンプなどの周辺機器の能力や実力が、何の加減もなくそのまま表現されてしまうのです。悪いものは悪いようにしか鳴らない。愛想もへったくれもない。ごまかしが全く利かない。ところが、良いものだとたちまちに良くなる。しかもその伝達力、再現力は上限がない感じ。とことん良いものを使えば、とことん応えてくれる。その懐の深さというかキャパの大きさは半端じゃないと感じましたね(スピーカーはそのままでもアンプやプレーヤーは何台も替えてきましたので)。NS-1000Mの「M」はモニターの意味でして、まさにそのような能力を発揮してくれていたと思います。

 長らくセンモニ・ユーザーだった身としては、これから先も、センモニが津々浦々で愛用され続けることを願ってやみません。ただ、さすがに時代を経てきて、ネットワーク部分の古さは否めませんね。スピーカーケーブルの接合部などはかなり貧弱です。それらの部分がブラッシュアップされた中古のセンモニも出てきているようですが、果たしてどんな音を聴かせてくれるのか、とても興味深いです。そういうのを、いつかどこかで聴いてみたいものです。

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