14歳で作曲活動を始め、順調に階段をのぼりつつあったラフマニノフが《交響曲第1番》の大失敗により挫折。その後、何とか《ピアノ協奏曲第2番》の作曲に取りかかったものの、初恋の女性への失恋も重なり、強度の神経衰弱に陥ってしまいました。その苦境を救ったのが、友人から紹介されたニコライ・ダール博士という精神科医で、彼の献身的な治療によって全快したといいます。そのダール博士の励ましでようやく完成した曲は、当然に博士に献呈されました。
1901年の初演は大成功を収め、ラフマニノフの名声を打ち立てた出世作となり、その比類ない美しさ、ロマンチックさから、古今のピアノ協奏曲、というより全クラシック曲のなかで、もっとも人気の高い曲の一つとなっております。1945年のイギリス映画『逢いびき』のテーマ音楽に使われて一躍知られるようになり、今ではフィギュアスケートの演目でもよく耳にしますね。『のだめカンタービレ』でも千秋真一が演奏する場面がありました。
『逢いびき』は、美しい人妻と妻子ある男性の禁断の恋を描いた映画で、全編にわたってこの《ピアノ協奏曲第2番》が流れ、この曲以外の楽曲は一切使われていないんですね。まるでこの映画のためだけに作られた曲のようであり、また映画の第二の主役であるといってもよい存在感を示しています。よっぽど映画監督さんが気に入ったのでしょうけど、珍しいんじゃないでしょうか、こういうの。
全楽章でピアノとオーケストラが濃密に絡み合い、何とも官能的でドラマチックに曲は展開します。とりわけ第2楽章のやるせないほどにメランコリックなメロディーには、まったくもって言葉を失うのであります。もうホントにうっとり。オーケストラ・パートもとても充実していて緻密。ピアノ・パートは素人にはよく分からないのですが、随所に10度の広い和音を使う超絶技巧が要求されているとかで、発表当時にこれを弾きこなせるピアニストは少なかったといわれています。
愛聴盤は、クリスチャン・ツィマーマンと小澤征爾指揮、ボストン交響楽団による2000年の録音です。日ごろは女流を愛してやまない私でありますが、ここでのツィマーマンは、その技巧もさることながら、ほかのどの女流にも優る妖艶さと繊細さに満ちていると感じます。実に色っぽい。録音もいいです。とりわけ第1楽章冒頭のピアノの重低音の大迫力! 2004年度のレコード・アカデミー賞を受賞したディスクです。
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