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大切にしたい部屋の雰囲気

 直木賞作家で、大のオーディオ・ファンでもあった故・五味康祐さんは、かつて「リスニング・ルームはオーディオ機器の一つである」と述べていました。「我々が知っている以上に、音は部屋がつくる。スピーカーやアンプではない」として、どんな有名な機器でも部屋によって音が変わるので、実際に聴く部屋で鳴らして出た音で評価しなければならないと断じていた人です。

 五味さんは、愛好家の誰かの家で、あるオーディオ機器が良い音で鳴っていると聞くと、わざわざ出かけて行って試聴させてもらい、気に入ったら同じ機器を購入して自宅で聴くということを何度も試みていたそうです。ですから五味さんの発言は、自らの耳による、そうした数多い確かな経験に裏打ちされているわけです。

 残念ながら貧乏人の私には五味さんのような贅沢な真似はできませんが、それでも自分のオーディオ機器を洋室と和室で聴き比べただけでも、まるっきり違う音に聴こえたのでずいぶん驚いたものです。また同じ部屋であっても、あれこれの音響対策をとることで、少しずつ音は変わってきます。私ごときのそんな些細な経験によっても室内環境の重要性は痛感していますので、この記事の他にも幾つか「部屋」に関してしつこく書かせていただいている次第です。

 じゃあ一体どんな部屋にしたらいいのか。これについて共通して確かに言えるのは、まず部屋の広さとスピーカーの大きさのバランス、遮音と防音の徹底、そして吸音と反射のバランス。この3つが基本であろうと思います。それ以上の細かいことは、実際の部屋の環境・条件によって異なるので一概には言えないところです。ただあと一つ、個人的にどうしても大切にしたいと思っているのが、部屋の「雰囲気」です。

 と言っても、何もお金をかけて凝った内装にするとかでなく、まずいちばんは、自分自身の「居心地」がよいこと。その部屋にいるだけで何とも言えず気持ちいい!というのが理想だろうと思います。それから、この場所で好きな音楽を聴くんだという、ふつうの部屋とは違う「特別感」があること。どちらも抽象的な言い方で恐縮ですが、このへんは、まさにセンスが問われるところであり、人によって感性や嗜好が異なりますから色々なパターンがあるんだと思います。まさしく唯我独尊の愉悦の世界ですね。

マルチ・チャンネル

 若い人たちは全然ご存じないでしょうけど、1970年前半に「4チャンネル・ステレオ」が出現しました。アナログレコードの通常の2チャンネル分に加えてリアスピーカー2チャンネル分の信号を追加し、4つのスピーカーによる立体的な音響効果が得られるという触れ込みで、各メーカーから発売されてずいぶん流行ったもんです。

 私もそのころ親にねだってトリオ製の4チャンネル・ステレオを買ってもらいました。ところが、狭い部屋にリアスピーカーを置ける場所もなく、けっきょく4つのスピーカー全部を前に並べて(大きいスピーカーの上に小さいスピーカーを乗っけて)聴いていたんです。まったく意味がなかった・・・。でも間もなく市場からさっぱり姿を消してしまいましたよね。あの熱狂ぶりはいったい何だったのでしょう。

 ところで、これから先のオーディオ・シーンがどうなるかというと、4チャンネルどころではない、もっと多くの数のスピーカーによるマルチチャンネルに変わっていくといいます。それこそ四方八方から音が聴こえてきて、半端ない臨場感が得られるって。へーという感じですが、4チャンネルの良さを体感できなかった身としては、やや懐疑的な思いを抱いております。

 たとえば映画を観るときとか、スポーツ中継を観戦するときなどは、マルチチャンネルはとても効果的だろうと想像できます。今もホームシアターとかあって家電店で視聴してみると、あれはなかなかいいもんですね。ただ、純粋に音楽を聴く場合は如何なもんでしょう。映画やスポーツ観戦のようにあちらこちらから音が聴こえてくるのとは違い、ふつうはステージという特定の場所で演奏される音楽を聴くものですからね。ホールでは反射音こそあるものの、決して方々で楽器が鳴り響くわけではない。

 今のオーディオ、すなわち2チャンネル・ステレオによる再生は、2つのスピーカーによって眼前に作り出された臨場感あふれる音像、音場を、自身の2つの耳で焦点を合わせじっと聴き入る。そのようにしてにコンサート会場での視聴体験を再現しようとするもので、自然で理にかなっていると思うんです。まだマルチチャンネルを聴かないうちからつべこべ言うのもアレですけど、どうも今一つな気がしてなりません。過ぎたるはナントカのような・・・。
 

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