直木賞作家で、大のオーディオ・ファンでもあった故・五味康祐さんは、かつて「リスニング・ルームはオーディオ機器の一つである」と述べていました。「我々が知っている以上に、音は部屋がつくる。スピーカーやアンプではない」として、どんな有名な機器でも部屋によって音が変わるので、実際に聴く部屋で鳴らして出た音で評価しなければならないと断じていた人です。
五味さんは、愛好家の誰かの家で、あるオーディオ機器が良い音で鳴っていると聞くと、わざわざ出かけて行って試聴させてもらい、気に入ったら同じ機器を購入して自宅で聴くということを何度も試みていたそうです。ですから五味さんの発言は、自らの耳による、そうした数多い確かな経験に裏打ちされているわけです。
残念ながら貧乏人の私には五味さんのような贅沢な真似はできませんが、それでも自分のオーディオ機器を洋室と和室で聴き比べただけでも、まるっきり違う音に聴こえたのでずいぶん驚いたものです。また同じ部屋であっても、あれこれの音響対策をとることで、少しずつ音は変わってきます。私ごときのそんな些細な経験によっても室内環境の重要性は痛感していますので、この記事の他にも幾つか「部屋」に関してしつこく書かせていただいている次第です。
じゃあ一体どんな部屋にしたらいいのか。これについて共通して確かに言えるのは、まず部屋の広さとスピーカーの大きさのバランス、遮音と防音の徹底、そして吸音と反射のバランス。この3つが基本であろうと思います。それ以上の細かいことは、実際の部屋の環境・条件によって異なるので一概には言えないところです。ただあと一つ、個人的にどうしても大切にしたいと思っているのが、部屋の「雰囲気」です。
と言っても、何もお金をかけて凝った内装にするとかでなく、まずいちばんは、自分自身の「居心地」がよいこと。その部屋にいるだけで何とも言えず気持ちいい!というのが理想だろうと思います。それから、この場所で好きな音楽を聴くんだという、ふつうの部屋とは違う「特別感」があること。どちらも抽象的な言い方で恐縮ですが、このへんは、まさにセンスが問われるところであり、人によって感性や嗜好が異なりますから色々なパターンがあるんだと思います。まさしく唯我独尊の愉悦の世界ですね。
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