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ペールギュントの『朝』

 どなたもこなたもご存じのはずの超有名な曲、ペール・ギュントの『』。実は私、恥を忍んで申しますと、小学校の音楽でこの曲を習って以降、大人になってクラシック音楽を始めるまでの間ずっと、この曲はペール・ギュントという作曲家がつくった『朝』だと思い込んでおりました。先生がきちんと教えてくれなかったのか、それとも私が先生の話をよく聴いていなかったのか、まーたぶん後者だと思いますけど。

 でも、言い訳になりますが、楽曲で「〇〇の△△」という言い方をするときは、ふつう作曲家と曲名の並びじゃないですか。「グリーグ作曲のペール・ギュントの『朝』」というふうにちゃんと言ってくれなければ不親切というものです。まーそれで何か損したわけじゃないし、具体的に誰かの前で恥をかいたわけじゃありませんが、自分自身がひどく恥ずかしい思いをした次第です。しかし、後になってもっと驚かされたのが、この『朝』がイメージする風景のことです。

 長らくこの曲から思い描いていましたのは、空気が澄んだ静寂な森の木々に朝の光が差し、あちらこちらで可愛らしい小鳥がさえずり始める・・・。あのメロディーから想像するのは、そんな美しく爽やかな自然の風景でした。おそらく多くの皆さまも同じようなイメージを持っておられるのではないでしょうか。ところが、実はこれは「砂漠」の朝だというんです。そんなアホな、って感じ。

 『ペール・ギュント』は、ノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンが1867年に書いた戯曲でして、自由奔放で夢見がちな男ペールが、一攫千金を夢見て世界へ旅立ち、年老いて帰ってくるまでの冒険を描いた物語です。そして『朝(原題は”朝の気分”)』が登場するのは第4幕。長い旅の間に多くの宝物を得て大金持ちになったペールが、朝起きてみると宝物がすべて奪われ、砂漠にただ一人残されていた、そんな最悪な朝を描いた曲なんですって。想像していたのと全く違う。このことは先生は絶対に教えてくれなかったと断言します。でも、美人だったので許します。

 とまれ、『朝』ばかりが有名になった『ペール・ギュント』ですが、全曲を聴いてみると、ほかにも魅力的な曲がいくつもあり、『朝』だけを聴いていたのでは決して味わえない独特の雰囲気、世界観に浸ることができます。作曲家名を勘違いしていた私が言うのもアレですけど、まだの方はぜひとも全曲(抜粋盤でもいいです)を聴いてみられることをお勧めいたします。

サン=サーンスの『動物の謝肉祭』

 「謝肉祭」というのは、もとはカトリックで行われるお祭りで、仮面をかぶって身分を隠し、日ごろの不平不満を皮肉にしてぶちまけるカーニバルのことだそうです。お肉に感謝する意味合いもあるそうですが、私たち日本人にはあまり馴染みがないですね。そんでもってサン=サーンスの14曲からなる『動物の謝肉祭』は、そのおとぎ話のような題名から、何も知らずに聴き始めたときは、ひたすら幻想的で可愛らしい曲かと思っていました。でも聴けば聴くほど、あまり可愛くない・・・。

 実は、サン=サーンスは、この曲を何度か非公開で演奏した以外は、死ぬまで出版・公開演奏を禁じたそうです。その理由は、ほかの作曲家の楽曲を風刺的に用いていて、あくまでプライベートな仲間内での演奏目的で作った曲だからというんです。たとえば第4曲『亀』では、オッフェンバックの有名なオペレッタ『天国と地獄』の旋律がめちゃくちゃ遅いテンポで奏でられます。あまりにゆっくりなので、すぐにはそれと気づかないほど。当時流行していたオペレッタへの反抗だともいわれます。

 第8曲『耳の長い登場人物』では、のどかなロバの鳴き声をヴァイオリンが模倣して奏でるのですが、これは彼の音楽を批判した音楽評論家に対する皮肉だそうです。耳が長い・・・って。また、第11曲『ピアニスト』では、ピアノの練習曲をわざと下手くそに弾きます。これも何かへの皮肉? ほかにもベルリオーズやメンデルスゾーンなどの楽曲のメロディーも登場します。第12曲『化石』という題名も何だか意味深長。ただ、第13曲の『白鳥』だけはオリジナル曲として出版と公開演奏が許可されたそうです。あの有名な美しいメロディーです。

 こんな毒気いっぱいの作品を残したサン=サーンスって、いったいどんな性格の人だったのでしょう。聞けば、当時の音楽業界からはかなり嫌われていたといいます。皮肉屋というか、何かにつけて一言多かったといい、たとえば1885年当時に人気を博していたワーグナーについて、「私はワーグナーの作品を、その奇妙な面は別にして、ことのほか深く賛美している」と余計な一言を加えてしまったがために、多くの反感を招き、翌年に予定していたドイツでの演奏旅行が軒並みキャンセルされてしまったとか。まさしく「口は災いのもと」でありますね。
 

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指揮者になりたい!

 クラシック音楽ファンならずとも、オーケストラの指揮者に憧れる人は多いと思います。私もまごうことなくその一人であります。とにかくカッコいいですもんね。しかし、一見、簡単にできそうな気がしますが、実際は誰もができるわけではないようです。評論家の中川右介さんによれば、

 あるテレビ番組で、男性アイドル歌手が「僕も指揮をしてみたい」と言い出して、「じゃあ、どうぞ」となって、伴奏のオーケストラに向かって指揮棒を振ってみたそうです。それらしい動きだったものの、何の音楽的裏付けもなかったためか、オーケストラの団員たちは戸惑い、まったく音が揃いませんでした。楽団員が意地悪をしたわけではなく、彼らとしても、どう音を出していいか分からなかったのです。

 素人でもできそうでいて、できない。それが指揮者の仕事。ただ指揮棒を振っているだけでテンポや強弱などを指示しているようではあるものの、それだけではない。全身からのオーラのようなもので、曲に感情を込め、それが演奏者に伝わり音となって出てくるという、実に次元の高い世界。うーん、ますます憧れます。
 

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