不肖私、ふだんはヘッドホンでは音楽を聴かないですし、あくまで緊急避難的な使用にとどめております。ヘッドホンを好まない理由は、何より頭の中だけの音響が気持ちよく体感できないからですが、もう一つの大きな理由が、「難聴」の原因になると恐れているからです。
年を取ってきますと、モスキート音など周波数の高い音が聞こえにくくなる上、耳そのものがだんだん遠くなりがちですからね。さらに症状が進んで大好きなクラシック音楽が聴けなくなったら、生きている甲斐が無くなります。一日も長く、耳は健康でありたいものです。
私ら世代が若いころのヘッドホンといえば、夜間にステレオを聴くときなど、もっぱらサブ的使用のためのアイテムだったと思います。ヘッドホンばかりで聴くということは決してなかった。さらにその後、ヘッドホンは難聴になると広く言われ出したものですから、サブ的使用すらもやめたんです。
すると、1979年にソニーのウォークマンが発売され、音楽を外に持ち出すことが可能になり、さらに2001年にAppleが発売したiPodが熱狂的な人気を得てからは、屋内外を問わずヘッドホンやイヤホンで音楽を聴くスタイルが日常的になってきました。
当時は私も流行に乗って、通勤途上などにiPodで音楽を聴いていたことがあります。そのときはヘッドホンではなくイヤホンでしたが、電車の中ではかなりボリュームを上げていたと思います。流行に乗っかるのを優先し、実際、便利で楽しかったですから、難聴への不安は敢えて無視していましたね。
ところが、自宅にいたある時、ヘッドホンでしばらく音楽を聴いた直後に、ヘッドホンを外してふつうにスピーカーで聴いてみたんです。そしたら、耳の入り口に「膜」ができたような妙な感じがして、きちんとした音に聴こえなかったのです。これはマズイ、一時的にも明らかに難聴になっている! というので再びヘッドホンやイヤホンの使用はやめた次第です。
実は、かのWHO(世界保健機関)も、今、世界じゅうの若者たちが「ヘッドホン難聴」または「イヤホン難聴」のリスクにさらされていると警鐘を鳴らしているそうです。その症状は、じわじわと進行し、少しずつ両方の耳の聞こえが悪くなっていくため、初期には難聴を自覚しにくいのが特徴だといいます。事は、けっこう重大なのではないかと思います。
私たちが音を聴く仕組みは、耳の中の蝸牛(かぎゅう)という器官にある「有毛細胞」が振動し、それが電気信号に変換されて脳に伝わるようになっています。ところが大音量によって有毛細胞がいったん壊れると、決して元には戻らないといいます。その前に対処しないと取り返しがつかなくなる!
しばしば、周囲にひどく音漏れするほどの大音量で聴いている若者を見かけますが、ひょっとしたらすでに回復不能な難聴に陥っているかもしれません。皆さまも、どうかくれぐれも注意なさってください。
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