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巻第11(索引)<万葉集(掲載歌の索引)古典に親しむ

『万葉集』巻第11(索引)

〈後半〉2597番~2840番

  1. いかにして忘れむものぞ我妹子に恋はまされど忘らえなくに
  2. 遠くあれど君にぞ恋ふる玉桙の里人皆に吾恋ひめやも
  3. 験なき恋をもするか夕されば人の手まきて寝らむ子ゆゑに
  4. 百代しも千代しも生きてあらめやも我が思ふ妹を置きて嘆くも
  5. 現にも夢にも吾は思はずき古りたる君にここに逢はむとは
  6. 黒髪の白髪までと結びてし心ひとつを今解かめやも
  7. 心をし君に奉ると思へればよしこのころは恋ひつつをあらむ
  8. 思ひ出でて哭には泣くともいちしろく人の知るべく嘆かすなゆめ
  9. 玉桙の道行きぶりに思はぬに妹を相見て恋ふるころかも
  10. 人目多み常かくのみし候らはばいづれの時か吾が恋ひずあらむ
  11. しきたへの衣手離れて吾を待つとあるらむ児らは面影に見ゆ
  12. 妹が袖別れし日より白たへの衣片敷き恋ひつつぞ寝る
  13. 白栲の袖はまゆひぬ我妹子が家のあたりをやまず振りしに
  14. ぬばたまの吾が黒髪を引きぬらし乱れてさらに恋ひわたるかも
  15. 今さらに君が手枕まき寝めや吾が紐の緒の解けつつもとな
  16. 白栲の袖触れてし夜吾が背子に吾が恋ふらくは止む時もなし
  17. 夕占にも占にも告れる今夜だに来まさぬ君を何時とか待たむ
  18. 眉根掻き下いふかしみ思へるにいにしへ人を相見つるかも
  19. 敷栲の枕を巻きて妹と吾と寝る夜はなくて年ぞ経にける
  20. 奥山の真木の板戸を音速み妹があたりの霜の上に宿ぬ
  21. あしひきの山桜戸を開け置きて吾が待つ君を誰れか留むる
  22. 月夜よみ妹に逢はむと直道から吾は来つれど夜ぞ更けにける
  23. 朝影に吾が身はなりぬ韓衣裾のあはずて久しくなれば
  24. 解き衣の思ひ乱れて恋ふれどもなぞ汝がゆゑと問ふ人も無き
  25. 摺り衣着りと夢に見つうつつにはいづれの人の言か繁けむ
  26. 志賀の海人の塩焼き衣穢れぬれど恋といふものは忘れかねつも
  27. 紅の八しほの衣朝な朝な馴れはすれどもいやめづらしも
  28. 紅の濃染めの衣色深く染みにしかばか忘れかねつる
  29. 逢はなくに夕占を問ふと幣に置くに吾が衣手はまたぞ継ぐべき
  30. 古衣打棄る人は秋風の立ち来る時に物思ふものぞ
  31. はねかづら今する妹がうら若み笑みみ怒りみ著けし紐解く
  32. いにしへの倭文機帯を結び垂れ誰れといふ人も君には益さじ
  33. 逢はずとも吾は恨みじこの枕吾と思ひてまきてさ寝ませ
  34. 結へる紐解かむ日遠み敷栲の我が木枕は苔生しにけり
  35. ぬばたまの黒髪敷きて長き夜を手枕の上に妹待つらむか
  36. まそ鏡直にし妹を相見ずは我が恋やまじ年は経ぬとも
  37. まそ鏡手に取り持ちて朝な朝な見む時さへや恋の繁けむ
  38. 里遠み恋ひわびにけりまそ鏡面影去らず夢に見えこそ
  39. 剣大刀身に佩き添ふる大夫や恋といふものを忍びかねてむ
  40. 剣大刀諸刃の上に行き触れて死にかも死なむ恋ひつつあらずは
  41. うち鼻ひ鼻をぞひつる剣大刀身に添ふ妹し思ひけらしも
  42. 梓弓末のはら野に鳥狩する君が弓弦の絶えむと思へや
  43. 葛城の襲津彦真弓新木にも頼めや君が吾が名告りけむ
  44. 梓弓引きみ緩へみ来ずは来ず来ば来そを何ぞ来ずは来ばそを
  45. 時守の打ち鳴す鼓数みみれば時にはなりぬ逢はなくもあやし
  46. 燈の影に輝ふうつせみの妹が笑まひし面影に見ゆ
  47. 玉桙の道行き疲れ稲筵しきても君を見むよしもがも
  48. 小墾田の板田の橋の壊れなば桁より行かむな恋ひそ吾妹
  49. 宮材引く泉の杣に立つ民のやむ時も無く恋ひ渡るかも
  50. 住吉の津守網引の泛子の緒の浮かれか行かむ恋ひつつあらずは
  51. 手作りの空ゆ引き越し遠みこそ目言離るらめ絶ゆと隔てや
  52. かにかくに物は思はじ飛騨人の打つ墨縄のただ一道に
  53. あしひきの山田守る翁が置く鹿火の下焦がれのみ我が恋ひ居らく
  54. そき板もち葺ける板目のあはざらば如何にせむとか吾が寝始めけむ
  55. 難波人葦火焚く屋の煤してあれど己が妻こそ常めづらしき
  56. 妹が髪上げ竹葉野の放ち駒荒びにけらし逢はなく思へば
  57. 馬の音のとどともすれば松蔭に出でてぞ見つるけだし君かと
  58. 君に恋ひ寐ねぬ朝明に誰が乗れる馬の足の音ぞ吾に聞かする
  59. 紅の裾引く道を中に置きて妾は通はむ君か来まさむ
  60. 天飛ぶや軽の社の斎ひ槻幾代まであらむ隠り妻ぞも
  61. 神なびにひもろき立てて斎へども人の心は守りあへぬもの
  62. 天雲の八重雲隠り鳴る神の音のみにやも聞き渡りなむ
  63. 争へば神も憎ますよしゑやしよそふる君が憎くあらなくに
  64. 夜並べて君を来ませとちはやぶる神の社を祷まぬ日はなし
  65. 霊ぢはふ神も吾をば打棄てこそしゑや命の惜しけくもなし
  66. 吾妹子にまたも逢はむとちはやぶる神の社を祷まぬ日はなし
  67. ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし今は吾が名の惜しけくもなし
  68. 夕月夜暁闇の朝影に吾が身はなりぬ汝を思ひかねに
  69. 月しあれば明くらむ別も知らずして寝て吾が来しを人見けむかも
  70. 妹が目の見まく欲しけく夕闇の木の葉隠れる月待つごとし
  71. 真袖持ち床うち掃ひ君待つと居りし間に月かたぶきぬ
  72. 二上に隠らふ月の惜しけども妹が手本を離るるこのころ
  73. 吾が背子が振り放け見つつ嘆くらむ清き月夜に雲なたなびき
  74. まそ鏡清き月夜のゆつりなば思ひは止まず恋こそまさめ
  75. 今夜の有明月夜ありつつも君を置きては待つ人もなし
  76. この山の嶺に近しと吾が見つる月の空なる恋もするかも
  77. ぬばたまの夜渡る月のゆつりなば更にや妹に吾が恋ひ居らむ
  78. 朽網山夕居る雲の薄れ行かば我れは恋ひむな君が目を欲り
  79. 君が着る御笠の山に居る雲の立てば継がるる恋もするかも
  80. ひさかたの天飛ぶ雲にありてしか君を相見む落ちつる日なしに
  81. 佐保の内ゆあらしの風の吹きぬれば帰りは知らに嘆く夜ぞ多き
  82. はしきやし吹かぬ風ゆゑ玉櫛笥開けてさ寝にし吾ぞ悔しき
  83. 窓越しに月おし照りてあしひきの嵐吹く夜は君をしぞ思ふ
  84. 川千鳥住む沢の上に立つ霧のいちしろけむな相言ひそめてば
  85. 吾が背子が使ひを待つと笠も着ず出でつつぞ見し雨の降らくに
  86. 韓衣君にうち着せ見まく欲り恋ひぞ暮らしし雨の降る日を
  87. 彼方の埴生の小屋に小雨降り床さへ濡れぬ身に添へ我妹
  88. 笠無みと人には言ひて雨障み留まりし君が姿し思ほゆ
  89. 妹が門行き過ぎかねつ久方の雨も降らぬかそをよしにせむ
  90. 夕占問ふ吾が袖に置く白露を君に見せむと取れば消につつ
  91. 桜麻の麻生の下草露しあれば明かしてい行け母は知るとも
  92. 待ちかねて内には入らじ白栲の吾が衣手に露は置きぬとも
  93. 朝露の消やすき吾が身老いぬともまたをちかへり君をし待たむ
  94. 白栲の吾が衣手に露は置きて妹は逢はさずたゆたひにして
  95. かにかくに物は思はじ朝露の吾が身一つは君がまにまに
  96. 夕凝りの霜置きにけり朝戸出にいたくし踏みて人に知らゆな
  97. かくばかり恋ひつつあらずは朝に日に妹が踏むらむ地にあらましを
  98. あしひきの山鳥の尾の一峰越え一目見し子に恋ふべきものか
  99. 吾妹子に逢ふよしをなみ駿河なる富士の高嶺の燃えつつかあらむ
  100. 荒熊の住むといふ山の師歯迫山責めて問ふとも汝が名は告らじ
  101. 妹が名も吾が名も立たば惜しみこそ富士の高嶺の燃えつつ渡れ
  102. 行きて見て来れば恋しき朝香潟山越しに置きて寐ねかてぬかも
  103. 安太人の梁打ち渡す瀬を速み心は思へど直に逢はぬかも
  104. 玉かぎる石垣淵の隠りには伏して死ぬとも汝が名は告らじ
  105. 明日香川明日も渡らむ石橋の遠き心は思ほえぬかも
  106. 明日香川水行き増りいや日異に恋の増らばありかつましじ
  107. 真薦刈る大野川原の水隠りに恋ひ来し妹が紐解く吾は
  108. あしひきの山下響み行く水の時ともなくも恋ひ渡るかも
  109. はしきやし逢はぬ君ゆゑいたづらにこの川の瀬に玉裳濡らしつ
  110. 泊瀬川早み早瀬をむすび上げて飽かずや妹と問ひし君はも
  111. 青山の石垣沼の水隠りに恋ひや渡らむ逢ふよしをなみ
  112. しなが鳥猪名山響に行く水の名のみ寄そりし隠り妻はも
  113. 吾妹子に吾が恋ふらくは水ならばしがらみ超して行くべぞ思ふ
  114. 犬上の鳥籠の山なる不知哉川いさとを聞こせ我が名告らすな
  115. 奥山の木の葉隠りて行く水の音聞きしより常忘らえず
  116. 言急くは中は淀ませ水無川絶ゆといふことをありこすなゆめ
  117. 明日香川行く瀬を早み速けむと待つらむ妹をこの日暮らしつ
  118. もののふの八十宇治川の急き瀬に立ち得ぬ恋も吾はするかも
  119. 神なびの打廻の崎の岩淵の隠りてのみや吾が恋ひ居らむ
  120. 高山ゆ出で来る水の岩に触れ砕けてぞ思ふ妹に逢はぬ夜は
  121. 朝東風に井堤越す波の外目にも逢はぬものゆゑ滝もとどろに
  122. 高山の岩もと激ち行く水の音には立てじ恋ひて死ぬとも
  123. 隠り沼の下に恋ふれば飽き足らず人に語りつ忌むべきものを
  124. 水鳥の鴨の棲む池の下樋無みいぶせき君を今日見つるかも
  125. 玉藻刈る井堤のしがらみ薄みかも恋の淀める吾が心かも
  126. 吾妹子が笠の借り手の和射見野に吾は入りぬと妹に告げこそ
  127. 数多あらぬ名をしも惜しみ埋れ木の下ゆぞ恋ふる去方知らずて
  128. 秋風の千江の浦廻の木積なす心は寄りぬ後は知らねど
  129. 白真砂三津の黄土の色に出でて云はなくのみぞ我が恋ふらくは
  130. 風吹かぬ浦に波立ち無き名をも吾は負へるか逢ふとはなしに
  131. 酢蛾島の夏身の浦に寄する波間も置きて吾が思はなくに
  132. 近江の海沖つ島山奥まへて我が思ふ妹が言の繁けく
  133. 霰降り遠つ大浦に寄する波よしも寄すとも憎くあらなくに
  134. 紀の海の名高の浦に寄する波音高きかも逢はぬ子ゆゑに
  135. 牛窓の波の潮騒島響み寄そりし君に逢はずかもあらむ
  136. 沖つ波辺波の来寄る佐太の浦のこの時過ぎて後恋ひむかも
  137. 白波の来寄する島の荒礒にもあらましものを恋ひつつあらずは
  138. 潮満てば水沫に浮かぶ細砂にも吾は生けるか恋ひは死なずて
  139. 住吉の岸の浦廻に重く波のしくしく妹を見むよしもがも
  140. 風をいたみいたぶる波の間無く吾が思ふ君は相思ふらむか
  141. 大伴の御津の白波間無く我が恋ふらくを人の知らなく
  142. 大船のたゆたふ海に重石下ろしいかにせばかも吾が恋やまむ
  143. みさご居る沖つ荒礒に寄する波行く方も知らず吾が恋ふらくは
  144. 大船の艫にも舳にも寄する波寄すとも吾は君がまにまに
  145. 大海に立つらむ波は間あらむ君に恋ふらく止む時もなし
  146. 志賀の海人の火気焼き立てて焼く塩の辛き恋を吾はするかも
  147. なかなかに君に恋ひずは比良の浦の海人ならましを玉藻刈りつつ
  148. 鱸取る海人の灯火外にだに見ぬ人ゆゑに恋ふるこのころ
  149. 港入りの葦別け小舟障り多み吾が思ふ君に逢はぬころかも
  150. 庭清み沖へ漕ぎ出る海人舟の楫取る間無き恋もするかも
  151. あぢかまの塩津をさして漕ぐ船の名は告りてしを逢はざらめやも
  152. 大船に葦荷刈り積みしみみにも妹は心に乗りにけるかも
  153. 駅路に引き舟渡し直乗りに妹は心に乗りにけるかも
  154. 吾妹子に逢はず久しもうまし物阿倍橘の苔生すまでに
  155. あぢの住む渚沙の入江の荒磯松我を待つ児らはただ一人のみ
  156. 吾妹子を聞き都賀野辺のしなひ合歓木吾は忍びえず間なくし思へば
  157. 波の間ゆ見ゆる小島の浜久木久しくなりぬ君に逢はずして
  158. 朝柏潤八河辺の小竹の芽の偲ひて寝れば夢に見えけり
  159. 浅茅原刈り標さして空言も寄そりし君が言をし待たむ
  160. 月草の仮れる命にある人をいかに知りてか後も逢はむと言ふ
  161. 大君の御笠に縫へる有間菅ありつつ見れど事なき吾妹
  162. 菅の根のねもころ妹に恋ふるにしますらを心思ほえぬかも
  163. 吾が宿の穂蓼古幹摘み生ほし実になるまでに君をし待たむ
  164. あしひきの山沢回具を採みに行かむ日だにも逢はせ母は責むとも
  165. 奥山の岩本菅の根深くも思ほゆるかも吾が思ひ妻は
  166. 蘆垣の中の似児草にこよかに我と笑まして人に知らゆな
  167. 紅の浅葉の野らに刈る草の束の間も吾を忘らすな
  168. 妹がため命残せり刈り薦の思ひ乱れて死ぬべきものを
  169. 吾妹子に恋つつあらずは刈り薦の思ひ乱れて死ぬべきものを
  170. 三島江の入江の薦を刈りにこそ吾をば君は思ひたりけれ
  171. あしひきの山橘の色に出でて吾は恋なむを人目難みすな
  172. 葦鶴の騒く入江の白菅の知らせむためと言痛かるかも
  173. 吾が背子に吾が恋ふらくは夏草の刈り除くれども生ひ及くごとし
  174. 道の辺のいつ柴原の何時も何時も人の許さむ言をし待たむ
  175. 吾妹子が袖を頼みて真野の浦の小菅の笠を着ずて来にけり
  176. 真野の池の小菅を笠に縫はずして人の遠名を立つべきものか
  177. さす竹の世隠りてあれ吾が背子が吾許し来ずは吾恋ひめやも
  178. 神奈備の浅小竹原のうるはしみ妾が思ふ君が声の箸けく
  179. 山高み谷辺に延へる玉葛絶ゆる時なく見むよしもがも
  180. 道の辺の草を冬野に踏み枯らし吾立ち待つと妹に告げこそ
  181. 畳薦隔て編む数通はさば道の芝草生ひずあらましを
  182. 水底に生ふる玉藻の生ひ出でずよしこのころはかくて通はむ
  183. 海原の沖つ縄海苔うち靡き心もしのに思ほゆるかも
  184. 紫の名高の浦の靡き藻の心は妹に寄りにしものを
  185. 海の底奥を深めて生ふる藻のもとも今こそ恋はすべなき
  186. さ寝がには誰とも宿めど沖つ藻の靡きし君が言待つ吾を
  187. 吾妹子が何とも吾を思はねば含める花の穂に咲きぬべし
  188. 隠りには恋ひて死ぬとも御園生の韓藍の花の色に出でめやも
  189. 咲く花は過ぐる時あれど我が恋ふる心の中は止む時もなし
  190. 山吹のにほへる妹がはねず色の赤裳の姿夢に見えつつ
  191. 天地の寄り合ひの極み玉の緒の絶えじと思ふ妹があたり見つ
  192. 息の緒に思へば苦し玉の緒の絶えて乱れな知らば知るとも
  193. 玉の緒の絶えたる恋の乱れなば死なまくのみそまたも逢はずして
  194. 玉の緒のくくり寄せつつ末つひに行きは別れず同じ緒にあらむ
  195. 片糸もち貫きたる玉の緒を弱み乱れやしなむ人の知るべく
  196. 玉の緒の現し心や年月の行きかはるまで妹に逢はずあらむ
  197. 玉の緒の間も置かず見まく欲り吾が思ふ妹は家遠くありて
  198. 隠り津の沢たづみなる石根ゆも通して思ふ君に逢はまくは
  199. 紀の国の飽等の浜の忘れ貝我は忘れじ年は経ぬとも
  200. 水くくる玉に交じれる磯貝の片恋ひのみに年は経につつ
  201. 住吉の浜に寄るといふ打背貝実無き言もち我れ恋ひめやも
  202. 伊勢の海人の朝な夕なに潜くといふ鮑の貝の片思にして
  203. 人言を繁みと君を鶉鳴く人の古家に語らひて遣りつ
  204. 暁と鶏は鳴くなりよしゑやし独り寝る夜は明けば明けぬとも
  205. 大海の荒礒の洲鳥朝な朝な見まく欲しきを見えぬ君かも
  206. あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む
  207. 里中に鳴くなる鶏の呼び立てて甚くは泣かぬ隠り妻はも
  208. 高山に高部さ渡り高々に我が待つ君を待ち出でむかも
  209. 伊勢の海ゆ鳴き来る鶴の音どろも君が聞こさば吾恋ひめやも
  210. 吾妹子に恋ふれにかあらむ沖に棲む鴨の浮寝の安けくもなし
  211. 明けぬべく千鳥しば鳴く白栲の君が手枕いまだ飽かなくに
  212. 眉根掻き鼻ひ紐解け待てりやも何時かも見むと恋ひ来し吾を
  213. 今日なれば鼻し鼻ひし眉かゆみ思ひしことは君にしありけり
  214. 音のみを聞きてや恋ひむまそ鏡直目に逢ひて恋ひまくもいたく
  215. この言を聞かむとならしまそ鏡照れる月夜も闇のみに見つ
  216. 吾妹子に恋ひてすべなみ白栲の袖返ししは夢に見えきや
  217. 吾背子が袖返す夜の夢ならしまことも君に逢ひたるごとし
  218. 吾が恋は慰めかねつま日長く夢に見えずて年の経ぬれば
  219. ま日長く夢にも見えず絶えぬとも吾が片恋は止む時もあらじ
  220. うらぶれて物な思ひそ天雲のたゆたふ心吾が思はなくに
  221. うらぶれて物は思はじ水無瀬川ありても水は行くといふものを
  222. かきつはた佐紀沼の菅を笠に縫ひ着む日を待つに年ぞ経にける
  223. 押照る難波菅笠置き古し後は誰が着む笠ならなくに
  224. かくだにも妹を待ちなむさ夜更けて出で来し月の傾くまでに
  225. 木の間より移ろふ月の影を惜しみ立ち廻るにさ夜更けにけり
  226. 栲領巾の白浜波の寄りもあへず荒ぶる妹に恋ひつつそ居る
  227. かへらまに君こそ吾に栲領巾の白浜波の寄る時も無き
  228. 思ふ人来むと知りせば八重葎覆へる庭に玉敷かましを
  229. 玉敷ける家も何せむ八重葎覆へる小屋も妹と居りせば
  230. かくしつつ有り慰めて玉の緒の絶えて別ればすべなかるべし
  231. 紅の花にしあらば衣手に染め付け持ちて行くべく思ほゆ
  232. 紅の深染めの衣を下に着ば人の見らくににほひ出でむかも
  233. 衣しも多くあらなむ取り替へて着ればや君が面忘れたる
  234. 梓弓弓束巻き替へ中見さし更に引くとも君がまにまに
  235. みさご居る洲に座る船の夕潮を待つらむよりは吾こそまされ
  236. 山川に筌をし伏せて守りあへず年の八年を吾がぬすまひし
  237. 葦鴨のすだく池水溢るとも設溝の辺に吾越えめやも
  238. 大和の室生の毛桃本繁く言ひてしものを成らずは止まじ
  239. 真葛延ふ小野の浅茅を心ゆも人引かめやも吾がなけなくに
  240. 三島菅いまだ苗なり時待たば着ずやなりなむ三島菅笠
  241. み吉野の水隈が菅を編まなくに刈りのみ刈りて乱りてむとや
  242. 川上に洗ふ若菜の流れ来て妹があたりの瀬にこそ寄らめ
  243. かくしてやなほや守らむ大荒木の浮田の社の標にあらなくに
  244. いくばくも降らぬ雨ゆゑ吾が背子が御名のここだく滝もとどろに

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